一粒の麦
横浜元町・ウチキパンをモデルにしたショートフィルム。

2017年 カラー シネスコサイズ 17min ショートショート実行委員会
監督、脚本 鈴木勉 エグゼクティブプロデューサー 別所哲也 プロデューサー 奈良太一
音楽 高山英丈 撮影 大木スミオ 照明 岩丸晴一 録音 根本飛鳥 美術 田中真砂美 装飾 庄島毅
出演 シャーロット・ケイト・フォックス、柄本明、涌井明日香、鈴木夢奈、シリル・コビーニ

WEB『ショートショート×環境未来都市・横浜』にて公開中 詳しくは→コチラ


 横浜の歴史あるパン屋に、突然やって来たフランスのパン職人、絵里子(シャーロット・ケイト・フォックス)。「このパン、泣いてる」と店主の本多(柄本明)に詰め寄る。年老いて頑固な本多と自由奔放な絵里子は相容れない。反発しながらも、パン作りを通して少しずつお互いを認め合うふたり。そして「日本で最初のパンのレシピ」を探すという、絵里子が横浜を訪れた真の目的は、ふたりの人生を思わぬ方向へと導いていく。 時間と国境を越えた、横浜ならではの物語がここに。


 私が横浜に住んでいるからだろうか、地方に行ってもパン屋があると必ず立ち寄ってしまう。取りあえず入ってグルリと店内の品揃えを見て、そのまま何も買わず外に出てしまう事もあるのだが、ただいま焼き上がりました〜なんて場面に遭遇すると、まぁ100%買うハメになる。国内でパンが初めて作られたのが、横浜という事は知っていたが、それにしても横浜にはパンの老舗が多い。殆んどが関内・元町に集中しているのは、外国人居留地があったからだが、とにかくパン好きには堪らないパン天国だ。パン屋はともかく、小麦まで横浜で作られていたのは意外だった。残念ながら、農家の数と収穫量がそれほど多くないため、大手製粉会社に卸すほどには至っていないらしいが。鈴木勉監督のショートフィルム『一粒の麦』は、タイトルから横浜の地産地消の話しと思われるかも知れないが、ラスト近くでそのタイトルに込められた意味が理解できる。
 本作で描かれているのは、文化と伝統の継承だ。ここに登場する二人の主人公、シャーロット・ケイト・フォックス演じるフランスから来たパン職人の絵里子と柄本明演じる老パン職人の本多は、先代が師匠と弟子の関係にあった。常に美味しいパンを追い求める絵里子に対し、パン作りに限界を感じて店を閉めようと考えている本多…実はこの対象的な二人が根底では、同じ焦燥感を抱いているのがポイントとなっている。多分、本多もかつては絵里子と同じように、常に美味しいパンを追い続けていたのであろう。日々、同じ事を繰り返していく中で、頭をもたげていた疑問が広がり、爆発しかけたところに絵里子が現れた。先代が書き残したと言われるパンのレシピノートを探しに来た絵里子に、頑固なパン職人が興味を抱いたのも、昔の自分を絵里子の中に感じたからかも知れない。
 だが、ノートに書かれていたのは、美味しいパンのレシピではなく、なんてことは無い普通のパンの作り方であった。それが、100年以上前に先代が辿り着いた答えだった。横浜で作られている小麦畑に立ちノートの意味を理解するシーンから、鈴木監督の前作『胡同の一日』を思い出す。再開発でいずれ無くなってしまう北京の古い街で、長年、漢方店を営んできた男の一日を描き、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアでグランプリを受賞した作品だ。店を畳む事を決意した男は友人の薬局に薬棚を譲るため、自転車に載せて運ぶ道中、考えに変化が訪れる。街の中を自転車を走らせていると、次々と常連客から声を掛けられ、路上で薬を調合してあげる事となる。その男の姿に柄本明演じるパン職人の姿が被さった。答えは実にシンプルかつ単純なところにあり、そこで主人公の迷いが無くなる。改めて思うのは、街を作るのは、こうした人々である…という事。舞台となった元町にある老舗パン屋「ウチキパン」が、明治時代から基本的な製法は変わらずに今なお支持されているのが、その証しだ。

「あれだけの記録を付けるのにどれだけ時間が掛かったんだろうな…」数多くの失敗からたったひとつのレシピが記されたノートについて老パン職人が言う。

【鈴木勉監督作品】

平成20年(2008)
胡同の一日

平成29年(2017)
一粒の麦



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