雪国
純粋な心がもえる 野性のはげしさでもえる 雪国の女・駒子!

1965年 カラー ビスタサイズ 113min 松竹(大船撮影所)
製作 山内静夫 監督、脚色 大庭秀雄 脚色 斎藤良輔 原作 川端康成 企画 桑田良太郎 
撮影 成島東一郎 音楽 山本直純 美術 芳野尹孝 録音 松本隆司 照明 田村晃雄 編集 杉原よ志
出演 木村功、岩下志麻、桜京美、加賀まりこ、早川保、沢村貞子、柳沢真一、桜むつ子、浪花千栄子
岩崎加根子、萬代峰子、清川虹子、千之赫子、菅原通済、内藤武敏、明石潮、穂積隆信


 川端康成の同名小説を「二人だけの砦」の斎藤良輔と「残菊物語(1963)」の大庭秀雄が共同で脚色大庭秀雄が監督した文芸作品。「夜の片鱗」の成島東一郎が撮影している。川端康成が原作を執筆した越後湯沢(小説には地名は一切出て来ないのだが…)は、スキーブームの影響で昭和初期の面影はすっかり無くなり、主要スタッフ全員が雪の降る地方をロケハンして廻り、ついに長野県にある野沢温泉で撮影が行われたという。舞台となる旅館のセットは美術監督の芳野尹孝の手によるもので古びた温泉宿の雰囲気を見事に再現している。主演の岩下志麻は前作『古都』に引き続き2度目の川端康成作品だが、映画化の話しを聞きつけ、自ら出演を申し出て実現したという程、意欲的に取り組んだ作品でもある。一年に一度やって来る愛する男を想う女の心情を演じる事によって初めて平仮名の“おんな”を表現するに至ったと自伝の中で後に語っている。共演の島村役に木村功を配し、大人の純文学の世界が余す事無く描かれた。


 島村(木村功)が初めてこの温泉町を訪れた時、芸者ではないが宴会の手伝いをしていた駒子(岩下志麻)に出会った。駒子は十六の時に東京にお酌に出たが、旦那がついて、踊りの師匠で身を立てるつもりが、旦那の急死で実現せぬまま、この町で過していた。島村は駒子に芸者を世話して欲しいと頼んだが、駒子は、欲望を処理する道具としてしか考えない島村に反発を感じた。また島村もそんな不思議なまでに清潔な駒子の姿に、侵し難い美しさをおぼえた。いつしか、駒子が島村の部屋を訪れるようになり、二人は男と女の関係を結んでしまう。島村が、再び雪国を訪れたのは、半年後のことであった。車中、島村は病人の青年を夫のようにいたわる女、葉子(加賀まりこ)を見かけた。その病人が駒子の踊りの師匠の息子だと聞かされる。芸者になっていた駒子と再会した島村は、駒子との逢瀬を楽しんだ。島村は町の人から、駒子が師匠をはじめ病人の息子と葉子のめんどうをみていると聞き、息子と駒子が婚約していたことも知るのであった。駒子は、否定しつつもそれ以上何も語らなかった。島村が三たびこの温泉場を訪れた時、師匠も息子もこの世の人ではなく駒子も今は、葉子と別れ、年期奉公の身となっていた。翌日縮の町を訪れた島村は、厳しい雪の上で布を織る雪国の女の姿に、駒子や葉子の姿を重ねた。島村は、初めて自分の心を恥じて、雪国を去る決心をした。突然半鐘が鳴った。炎えさかる家屋の中に葉子の姿を見つけた駒子は島村に別れを告げると、葉子に付き添い病院へ向かった。島村は翌日、何も言わず雪国を去るのだった。


 岩下志麻は、川端康成の小説に出て来る女性像が合っているのか、前作『古都』に引き続いての起用である。生き別れた双子の姉妹を奥ゆかしく演じた『古都』の主人公とは違い、本作の主人公、駒子は雪国の温泉地で温泉芸者となって生計を立てている力強い女性。全く正反対の女性でありながら、彼女が演じると同じ女優とは思えない程、原作の主人公になり切ってしまう。駒子の天真爛漫ぶりは、むしろ彼女が本来持っている気質に合っているのではないか?言わずと知れた川端康成の代表作である原作を映画化する場合は、ロケ地とキャスティングが重要なポイントであり、この2つの要素を映像に収める事が出来れば、内容が分って観に来ている観客は納得できるのだ。その点から言うと、駒子に岩下志麻をキャスティングしたのは、大成功と言っても良いであろう。上越弁を巧みに使って屈託の無い笑顔を見せる彼女の表情を見て、田舎の温泉地で足を踏ん張って生きている芸者さんたちって皆、こうなんじゃないかと思ってしまう。決して幸せな環境にいないにも関わらず健気に男が来るのを待ち続ける…久しぶりにやって来た男に対して、ちょっとだけすねて見せる…そんな仕草ひとつ取っても駒子=岩下志麻になっているのが凄い。駅で、祭の時期にやって来ると約束した男を待つ姿は、本当は哀れに映るはずなのに、岩下志麻特有のキリッとした表情のおかげで、待ちわびる出立ちにすら気品と風格を感じる。
 また、忘れてはならないのは、カメラマン成島東一郎による雪景色の映像美だ。青く澄み切った青空をバックに家の屋根を包み込む雪の白さのコントラスト。目にも鮮やかなこの映像は小説では表現し切れない、まさに『雪国』というタイトルは、こういう事だ!と言わんばかりの見事な映像だ。特に島村が、縮という布を織る村を訪れ、女性たちが雪の上で布を広げるシーンのは、風景の美しさと共に、そこに暮す人々の美しさを同時に表現しているのだから見事だ。今では、見られなくなった雪国特有のしっかりとした重厚な日本家屋を観る事が出来るだけでも興味深い。そして、本作でもうひとつ重要な舞台となるのが島村と駒子が出会う旅館だ。この旅館は、殆どが芳野尹孝の美術監督の手に依るセットだが、この古びた造形美を作り上げた彼の手腕は素晴らしい。特に中庭から二階の渡り廊下の窓を見上げるシーンのセットは、現在の技術を持ってしても出す事は出来ない風合いを持っている。昔の映画スタジオには、こうした職人さんたちが当たり前のように、量産される映画のセットを組み上げていたのだ。
 多分、公開当時に一番注目を集めるであろうと予測されるあの名台詞…「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国であった」というモノローグを言う主人公、島村を誰が演じるか?これって作品の出来を左右する部分であるだけに演技する方も大変だったのではなかろうか。その点、木村功演じる島村は神経質そうなインテリ然とした風貌がピッタリと当てはまっていた。彼の控えめな演技と岩下志麻の情炎に満ちた激しい演技が良い意味でぶつかり合い、重厚な男と女のドラマを作り上げている。これらをまとめあげた大庭秀雄も同様に職人気質を持った監督だからこそ成し遂げられたのだろう。

「1年ぶりね…1年に1度来る人なのね、あんたって」思い出したように宿にやって来る男に対してつぶやく岩下志麻の艶っぽさが川端文学を見事に表現している。


レーベル: 松竹
販売元: 松竹ホームビデオ
メーカー品番:DA-0475 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和35年(1960)
秋日和

昭和36年(1961)

あの波の果てまで
好人好日
京化粧

昭和37年(1962)
千客万来
切腹
秋刀魚の味  

昭和38年(1963)
古都
風の視線
島育ち
結婚式・結婚式
結婚の設計

昭和39年(1964)
いいかげん馬鹿
暗殺
五辧の椿
大根と人参

昭和40年(1965)
雪国
暖春

昭和41年(1966)
春一番
暖流
紀ノ川
処刑の島
おはなはん

昭和42年(1967)

春日和
智恵子抄
激流
あかね雲
女の一生

昭和43年(1968)
爽春
祇園祭

昭和44年(1969)
心中天網島
赤毛

昭和45年(1970)
無頼漢
影の車

昭和46年(1971)
内海の輪
婉という女
黒の斜面
嫉妬

昭和47年(1972)
影の爪

昭和49年(1974)
卑弥呼

昭和50年(1975)
桜の森の満開の下

昭和51年(1976)
はなれ瞽女おりん

昭和53年(1978)
雲霧仁左衛門
鬼畜

昭和56年(1981)
悪霊島

昭和57年(1982)
鬼龍院花子の生涯
疑惑

昭和59年(1984)
北の螢

昭和60年(1985)
魔の刻
聖女伝説

昭和61年(1986) 
近松門左衛門鑓の権三
極道の妻たち

昭和63年(1988)
桜の樹の下で

平成2年(1990)
極道の妻たち
 最後の戦い
少年時代

平成3年(1991)
新極道の妻たち

平成5年(1993)
新極道の妻たち
 覚悟しいや

平成6年(1994)
新極道の妻たち
 惚れたら地獄

平成7年(1995)
極道の妻たち
 赫い絆
鬼平犯科帳

平成8年(1996)
霧の子午線
極道の妻たち
 危険な賭け

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成15年(2003)
スパイ・ゾルゲ




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