社葬
会社は戦場だ!

1989年 カラー ビスタサイズ 130min 東映
プロデューサー 奈村協、妹尾啓太 企画 佐藤雅夫 監督 舛田利雄 脚本 松田寛夫 撮影 北坂清
照明 加藤平作 音楽 宇崎竜童 美術 内藤昭、柏博之、松宮敏之 編集 市田勇 録音 堀池美夫
出演 緒形拳、十朱幸代、江守徹、若山富三郎、加藤武、佐藤浩市、井森美幸、吉田日出子、藤真利子
高松英郎、根上淳、小松方正、船越栄一郎、芦田伸介、小林昭二、北村和夫、中丸忠雄、野際陽子


 大手新聞社トップが急死した事によって巻き起こる激烈な後継者争い。社会的なお披露目とされる社葬を目前に、権力への欲望を剥き出しにした男たちが暗躍する。まさに生死を掛けた権力闘争をドキュメンタリー・タッチで描く大型社会派ドラマを『大日本帝国』『首都消失』等の大作を手掛けてきた舛田利雄が監督。単なる派閥抗争ドラマにとどまらず、日本社会の特質とも言えるタテ社会の持つ二重構造をに大胆にメスを入れている。『将軍家光の乱心 激突』の松田寛夫が脚本を執筆し、厚みのある本格的な人間ドラマを構築している。撮影は同じく『将軍家光の乱心 激突』の北坂清がそれぞれ担当。さらに音楽を『駅 Station』の宇崎竜童が手掛けている。出演陣には、主演に『鬼畜』『火宅の人』など個性的な役を次々とこなす緒形拳、対する同僚でありながらも彼を窮地に陥れる野望家に江守徹が扮し熱き戦いを繰り広げる。他にも脇を固めているのは十朱幸代、若山富三郎、佐藤浩市、井森美幸といった新人からベテランまで絶妙なコンビネーションを見せている。


 日本有数の大新聞「太陽新聞」のトップでは、会長派と社長派の間で権力争いが起こっていた。関東の地方紙だったのを全国紙にまで発展させたのは現社長・岡部憲介(高松英郎)の父の大介(故人)と現会長・太田垣一男(若山富三郎)だった。取締役販売局長として腕をふるう鷲尾平吉(緒形拳)は、派閥を嫌って中立的立場をとっていた。ある日、定例役員会で谷から緊急議題として太田垣の代表権と名誉会長職の解任が提出され、鷲尾が棄権したために一票差で可決されてしまった。太田垣はショックで倒れ、病院にかつぎ込まれた。社長派は皆勝ち誇った様子だったが、その晩岡部憲介が料亭で芸者相手に腹上死してしまう。通夜の臨時役員会では葬儀委員長と社長人事をめぐって紛糾、翌日、太田垣が代表取締役名誉会長に復帰し、社葬葬儀委員長に就任。しかし、病気療養中のため実行委員長は鷲尾が務めることになった。社長選出は無記名投票の結果、物別れとなった。鷲尾はある日、突然北陸の販売店が添島の差し金で納金拒否の態度をとった。徳永(江守徹)の命令で鷲尾が何とか事態を収拾したが、添島は株の失敗で大穴を空けて自殺未遂。憲介の死で社長派は劣勢、太田垣は病室に徳永を呼んで密約を交わした。報復人事はしないが、鷲尾の首を切れというものだった。鷲尾は徳永からの辞表提出要求を拒否し、穂積で恭介(佐藤浩市)と会った。彼はすでに辞表を出していたが、三友銀行のスキャンダルや社葬の場で太田垣が徳永の社長就任を指名裁定することを鷲尾に話した。「なぜ自分だけがツメ腹を切らされなければならないのか」と怒った鷲尾は子飼いの部下の裏切りで相談役に落ちている前頭取野々村典正(芦田伸介)の協力を得、すべての情報をブラック・ジャーナリズムに流すと太田垣につめ寄った。社葬の当日、葬儀委員長の太田垣から指名された新社長は、岡部恭介だった。


 社葬―読んで字の如く「会社が施主として行う葬儀」勿論、その言葉の意味は理解していたが、公開当時は伊丹十三監督作品『お葬式』の二番煎じで、正しい社葬の作り方?または社葬に訪れるユニークな弔問客?そんなコメディかと失礼ながら思っていた。ところが、フタを開けてみたら社長派VS会長派の社内対立と生き残りを賭けた硬派な人間ドラマだった。ビジネスバトルドラマと言った方が良いだろうか?大手新聞社トップの死によって揺れ動く人事…全社を上げての公の場となる社葬に向けて様々な人間の思惑が交錯する。それにしても緒形拳演じる鷲尾という新聞社の販売部長のキャラの秀逸な事。デキる男とだらしない男というユニークな二面性でバブル期のドラマ(TBSの“愛はどうだ!”とか)において新しいイメージを打ち出した緒形の真骨頂と言えるキャラクターではないかと思う。本作の大手新聞社の販売部長・鷲尾という男は、ヤクザまがいの地方の販売店相手に単身乗り込み一本背負いで事を収めてしまう頼りになる叩き上げの男なのだが…その一方、私生活では女にだらしなく(好意的に表現すると情に脆い?)部下にバレバレな不倫をしているというマヌケた姿も披露する。不倫相手の趣味でスポーツ道具を買い揃え、不要になったら部下にあげてしまうのだ。こうしたカッコ悪い姿を交互に見せるから真剣になった時の緒形の表情がより際立つ。実は、クランクイン前に緒形は自分の役について、このような豪傑ではなく上司と話すだけで手に汗をかくような小心の人物にしたらどうか?と枡田監督に提言していたそうだ。うん、確かに本作が東映作品じゃなければ真の社会派として成立しただろうし、ラストの逆転劇も効いただろう。何よりも、そんな緒形拳を観たかったというのが本音ではある。
 どこにも属さず迎合しない一匹狼の鷲尾に対して野心剥き出しに社長派に鷲尾を誘い込む江守徹演じる徳永との対比が実に面白くハラハラさせられる。さすが日活アクション映画を数多く出掛けてきたプログラム・ピクチャーの名匠・枡田利雄監督は手堅く二人の男優をガップリ四つに組ませテンションを高める事に成功している。70年代に入ってから組織ものが多くなった枡田監督だけに弱肉強食の男性社会をスリリングに描くのは手馴れたものだったのだろう。企業内の駆け引きに重点を置き、大会社にありがちな派閥抗争を第一級のエンターテイメントに仕上げていたのは見事だ。また本作のユニークな点は舞台を新聞社にしておきながら記者は全く出て来ず、編成だの販売だの花形てはないが会社の屋台骨を支えている集団組織を描いているところだ。脚本家の松田寛夫の描く新聞社員は皆、一様に人間臭く妙に生っぽく、社長の葬儀であるにも関わらず別室で時期社長を決める会議を行っていたりする。これだけ一級の俳優陣を揃えながらドキュメンタリータッチの臨場感を出せるのは脚本の完成度の高さと言って良いだろう。そして殆どの場面が室内である事にも注目したい。(屋外の場面は鷲尾が不倫旅行するスキー場くらい)日本の経済は料亭と会議室といった密室で支えられているのは周知の事実だが、ここまで室内をエンターテイメントのステージに仕上げたのはさすがだ。こうした男たちの陰で犠牲を強いられた妻や妾…多くの女性たちを忘れてはならない。鷲尾の妻を演じた吉田日出子は出色。最高のタイミングで新しい喪服をねだる演技は最高だ。そして、本作で初めてエロチックさを感じた料亭の女将を演じた十朱幸代は間違いなく彼女の代表作となった。

「日本の新聞はインテリが作って、ヤクザが売る」セリフではないのだが、冒頭の販売店同士のイザコザを背景に映し出されるテロップ…納得。


レーベル:東映
販売元:東映ビデオ
メーカー品番: DSTD-2316 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,638円 (税込)

昭和43年(1968)
セックス・チェック
 第二の性

昭和44年(1969)
永訣 わかれ
風林火山
わが恋わが歌
七つの顔の女

昭和46年(1971)
婉という女

昭和48年(1973)
必殺仕掛人
 梅安蟻地獄

昭和49年(1974)
必殺仕掛人
 春雪仕掛針
砂の器
狼よ落日を斬れ
 風雲篇・激情篇・怒濤篇

昭和52年(1976)
太陽は泣かない

昭和52年(1977)
八甲田山

昭和53年(1978)
鬼畜

昭和54年(1979)
復讐するは我にあり

昭和55年(1980)
復活の日
わるいやつら
影の軍団 服部半蔵

昭和56年(1981)
北斎漫画
魔界転生
ええじゃないか
太陽のきずあと

昭和57年(1982)
野獣刑事

昭和58年(1983)
楢山節考
魚影の群れ
オキナワの少年
陽暉楼
 

昭和60年(1985)
薄化粧

MISHIMA:A Life In Four Chapters

昭和61年(1986)
火宅の人

昭和62年(1987)
女衒
吉原炎上

昭和63年(1988)
優駿 ORACION
ラブ・ストーリーを君に
孔雀王
華の乱

平成1年(1989)
将軍家光の乱心 激突
社葬
座頭市

平成3年(1991)
咬みつきたい
グッバイ・ママ
陽炎
大誘拐 RAINBOW KIDS 

平成4年(1992)
おろしや国酔夢譚
継承盃

平成5年(1993)
国会へ行こう!

平成8年(1996)
ピーター・グリーナウェイの枕草子
GONIN 2

平成11年(1999)
あつもの 杢平の秋
流星

平成12年(2000)
殺し

平成13年(2001)
歩く、人

平成15年(2003)
ミラーを拭く男

平成16年(2004)
隠し剣 鬼の爪
Last Quarter下弦の月

平成17年(2005)
ミラクルバナナ

平成18年(2006)
長い散歩
武士の一分
佐賀のがばいばあちゃん
寝ずの番

平成20年(2008)
ゲゲゲの鬼太郎
 千年呪い歌




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