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初監督作品『TRIANGULATION POINT』で“ショートショート フィルムフェスティバル 2004”にてオーディエンスアワード観客賞と審査員奨励賞を受賞し、世界6ヶ国12の映画祭で上映されるという快挙を成し遂げたYuki Saito監督。ハリウッドで映画を学んだ独自のカラーとスピード感で新人とは思えない卓越したセンスを披露した。続く短編SF時代劇『カクレ鬼』でも“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2009”にて史上初となる2度目の観客賞を受賞し、類い希な才能を見せつけた。そんなSaito監督が、初の長編映画『Re:Play-Girls リプレイガールズ』を引っさげて平成22年8月1日“ブリリア ショートショート シアター”で凱旋(と言っても良いだろう)舞台挨拶を行った。思春期の自殺という現代社会が抱える問題に深く斬り込みつつ、ハリウッド仕込みのエンターテインメント性を盛り込んだ一級の娯楽作品に仕上げたSaito監督に舞台挨拶直後、初長編作品に“自殺”というテーマを選んだ理由について率直な質問をぶつけてみた。 「今、12年連続で自殺者が3万人を越えていますよね?こんな時代だからと言って重いモノを作るのではなく自殺問題に対してポジティブな何かを作れないか…と思ったのがキッカケです。」最初の企画段階では純粋なアクション映画を作るという構想だったというが、単純に死を扱うアクションではなくメッセージ性を盛り込みたいと思い、自殺というテーマを選んだと語る。劇中、自殺サイトに様々な書き込みをしている文章が出てくるが、これは、Saito監督が実際に1年近く自殺サイトに参加して目にした生の声だ。「勿論、無責任な事はしたくないので僕からは掲示板で発言は一切しなかったのですが、意外と自殺サイトに集まる人々というのは、親や友人に悩みを言えず、ここで思いのたけを吐き出しているんじゃないか…?と気づたのです。」死にたいと思っている人間でも、そのサイトで他人の書き込みを読み進めると“悩んでいるのは自分だけではない”と思えるのかも知れない。作中でも主人公のミチが島でアリサという少女と出会うことで自殺を思い止まるどころか、一緒に生きて帰ろう…と勇気づけるシーンがある。「まさにそうなんですよね。ミチはイジメに合っている側。アリサはイジメられていた友人を救えなかった側。境遇の異なる二人が話す事でお互いに変化が訪れるんです。」友人をイジメから救えなかったアリサがミチを助けるためにある行動を起こした瞬間に彼女は救われたのだ。 実は、映画の中に出てくる自殺サイトを作った大坂俊介演じる実原という自殺案内人のキャラクター設計に大きな鍵が隠されていると語るSaito監督。「自殺しようとしている人間は叱咤激励程度じゃ考えは変わらない…と彼は知っているんですよね。実際に死を身近に感じるところまで追い込まないと本当の意味で“生きたい”という感情は芽生えないと思っているからこそ生きようとする少女たちに更に追い討ちをかけるように殺し合いをさせるんです。」実は、実原という男にはかつてフィアンセを自殺で失っているというバックストーリーが存在しているとSaito監督は教えてくれた。勿論、映画には登場しないエピソードだが、登場人物全員分バックストーリーを用意して出演者に自分の演じるキャラクターが何故こんなセリフを言ったり行動を起こすのかを考えさせてから撮影に臨んだというのだ。「実原の場合はフィアンセの自殺のサインに気付かなかった自分を責めて、自殺サイトを作ったというわけなのです。」勿論、登場人物全てのバックストーリーを語ると連続ドラマにしなくては描き切れないため劇場用パンフレット(監督曰わく“攻略本”)の中で詳細が掲載されている。「彼女たちにバックストーリーを用意したのは、演じるという事はキャラクターの人生を自分の物にしてもらいたかったからです。本当は僕なんかよりも彼女たちの方が世代的にも登場人物の気持ちが理解出来るはずなんです。」こうした演出技法はSaito監督がハリウッドで習得したやり方らしく、細かな背景を考えて行く内にゼロだったキャラクターが厚みを帯びてくるのだという。撮影中、彼女たちに枷たのは「1日1時間で良いから自分の演じるキャラクターに成りきる」という事。実際、外岡えりかは友人とカラオケに行く時、ミチになりきり“彼女だったら何を歌うか”考えながら過ごしたという。そうして撮影を続けている内に彼女たちにも変化が現れ「だんだん役に近づいていったんでしょうね。彼女たちの方からセリフをこうしたい…と進言してきたりしたんですよ。勿論、我々も役になりきった彼女たちの素の意見として採用しました。」だから、この映画の中で語られているセリフは彼女たち自身の言葉でもあるのだ。「正にこの映画はみんなで作り上げた…彼女たちも脚本家なんですよ。それは僕の狙いでもあったわけなんです。」 また、本作のキャスティングにおいて、俳優ではなくアイドルやフォトジェニックとして活躍する彼女たちを起用した理由について「彼女たちのライブビデオやサイン会の様子を見させてもらったんですけど…彼女たちは皆、勇気とパワーをファンにあげているんですよね。だからファンの男の子たちは皆、元気なイイ顔をして帰って行くのだと思います。」この光景を見たSaito監督は、同じ悩みを抱えている人にスクリーンに映る彼女たちに感情移入してもらえれば勇気を与えられるのでは?と確信したという。そんな彼女たちから更なるベストな演技を引き出すためにSaito監督は撮影に入る前に全員に遺書を書かせるという大胆な試みを行っている。彼女たちが書いた遺書は実際に作中に登場するのだが、中には“書かなかった”子も“書けなかった”子もいて、それもそっくり映画の中のシチュエーションで使われているのだ。だからお互いに遺書を読むシーンは脚本上では“キャスト自身が考える”(事実、本番当日まで監督自身中身を知らなかったという)となっていたそうだ。また、数名が練炭を焚いた小屋の中で遺書を読み合うシーンは出演者だけで監督もスタッフも外に出て、ビデオカメラを一人の出演者に預けて撮影されている。是非ともこのシーンは劇場にて確認していただきたいが緊張感溢れる何とも切ないシーンに仕上がっている。 “ショートショート フィルムフェスティバル & アジア ”で才能を世に知らしめたショートフィルムのクリエーターが長編映画の監督として新たな道を歩み始めたYuki Saito監督。今回、舞台挨拶をする監督の姿を見て実に感慨深いものを感じた。こういう事があるから若きクリエーターたちは夢を抱いて日々、映画を撮り続けているのだ。Saito監督の挑戦は長編映画が決してゴールではない。最後に力強く語ってくれたその言葉に全てが集約されていた。「ハリウッドにいたからこそ感じるのですが日本には海外に負けないコンテンツがたくさんあります。そんな日本が持っているパワーのあるコンテンツを使って世界に発信しようという考えはずっとブレずに抱いている思いです。」その言葉通り、日本から世界に飛び出した監督の作品が日本に逆輸入される…などという事も遠い将来の話しではないかも知れない。
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