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けたたましく鳴り響く目覚まし時計。松坂桃李演じる主人公トオルが寝ぼけながら手探りで目覚まし時計を止める。ゆっくりカメラはトオルの手元から下に向かってパンしていく。ベッドには昨日の晩に拾ってきた猫が寝ているはずだったのだが…。トオルは隣りでグッスリと眠り込んでいる女の子の姿に慌てふためきベッドから飛び起きる。昨晩の出来事を必死に思い出そうとするトオルをキョトンとした目で見つめる女の子…それが上間美緒演じるネコの初登場シーンだ。「何でこうなったんでしたっけ?」と戸惑うトオルに向かって彼女はただ一言だけ発する「ニャー」。拾われた猫が人間の女の子となって主人公を勇気づけていくというファンタジー映画で、殆どセリフが無く、表情と仕草だけで感情を表現するという難役に挑んだ彼女に撮影時の話しを聞いてみた。 ここから先は結末に関わる内容が掲載されています。映画観賞のルール違反となるのは重々承知の上であえてネタバレとなる記述をさせていただくが、それは今回の作品において、上間美緒という女優が新たなる演技の方向性を見出した瞬間を説明するには避けられないからである。なので、まだ未見の方はそれを承知の上でお読みいただきたい。(ちなみにGood Coming初回限定盤CD『明日へ』には完全収録DVDが付いているので是非)勿論、観客は彼女の正体は何なのか、ハッキリと分からないままトオルとネコの成り行きを見守るわけだが、初めて脚本を手にした彼女も自分が猫なのかネコなのか?自分がどちらを演じるのか迷って何度も読み返したという。確かに彼女は本作の中でネコを演じている女の子…つまり演技の中の演技という難易度の高い役に挑んでいるのだ。「私は、ネコなんですけど(本物の)猫ではないので、演じた女の子自身も手探りしてトオルに接していたと思うんです。ですから、そんな迷った感じを取り入れながら演じてみました」と当時を振り返る。その言葉通り、トオルの前での表情とトオルの留守中に部屋をうろつく時の表情が微妙に違っている事に驚く。勿論、後者は人間の彼女でありイタリアの本を興味深気にめくって。本に載っているボーノ(イタリア語で美味しい)の仕草をする姿と、その後トオルの前でそれを披露するシーンが出てくるが、その表情の違いに注目していただきたい。口にパスタを頬張った彼女が頬に指をあてて満面の笑みを浮かべるシーンでは「トオルに向かってボーノの仕草を見せた時は、少しでも彼に近づきたいという思いを表現したかったんです」と語る。本作の中でも特に印象に残るのはトオルの部屋に元カノが訪ねてきてベランダに隠れて二人の会話を聞いてしまうシーンと最後に初めて言葉を発するシーン。特に、初めて声を出すところは、「トオルに思いを寄せていた彼女が、それ以上背中を押してあげることが出来ず、しんみりした気持ちで“長い夏休みだったね”…って言ってみました」と彼女にとっても印象的なシーンだったと語っている。 全編を通して「ニャー」以外、人間の言葉を発する事が出来ないため、表情や仕草だけで自分の感情を表さなければならなかったのが難しかったという上間美緒。トオルの前で、空腹からお腹が鳴ってシュンとするシーンではなかなか上手く出来ず、月川監督にお手本を演じてもらったそうだ。撮影を終えて「今まで言葉に頼っていたところがあったんだなぁ…と、思いました。この作品を通じて、いかに言葉以外の表情や仕草で伝えるっていう事が大切なのかというのが分かりました」と感想を述べていた。色々と試行錯誤しながら挑んだ本作だったが、その甲斐があって本作を観た松坂桃李ファンの女の子からも“上間さんがカワイイ!”という評価が多数寄せられているという。演技というものに対してまだ始まったばかりの彼女にとって、この映画との出逢いは、何か大切なものを発見出来た場になったようで、今後の上間美緒の演技を楽しみに見守って行きたいと思う。 取材:平成24年6月30日(土)舞台挨拶後 ブリリア ショートショート シアターロビーにて
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