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今年で15周年を迎えたショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2013(以降SSFF & ASIA)にて、恒例のクリエイター向けセミナー「未来の映像業界を目指せ!原田眞人監督が語る、 クリエイター志望必聴セミナー!」が、平成25年6月2日(日)にラフォーレミュージアム原宿にて開催された。現在、UULAで配信(秋に劇場公開を予定)されている新作バイオレンス・アクション『RETURN リターン』の主題歌を担当するm-floのプロモーションビデオを手掛けた原田監督の講義を聴こうと、会場には映像クリエイターを目指す多くの若者が詰めかけた。質疑応答には制限時間ギリギリまで多くの質問が寄せられ、セミナー終了後に行われたサイン会でも原田監督は1時間以上も掛けて、サインを求める一人一人の質問に丁寧に答えていたのが印象に残った。 毎年、異なった経歴を持つ講師を迎えるクリエイター向けセミナーであるが、中でも原田監督が映画監督になるまでの経緯は、従来の日本映画界の常識に当てはまらない特殊なケースだ。原田監督が長編デビューした『さらば映画の友よ インディアンサマー』以前は映画制作の現場を体験しておらず、イギリスに語学留学していた時にキネマ旬報に寄稿したピーター・ボグダノヴィッチ監督作品『ラスト・ショー』の批評という映画ジャーナリストからのスタートだった。1979年、時代は日本映画の斜陽に伴い撮影所システムが崩壊し、その3年後には大手映画会社から独立した監督らがディレクターズ・カンパニーを設立した日本映画の変革期にあたる。原田監督は、ロサンゼルスで活動中に親交を深め、師と仰ぐハワード・ホークス監督から言われ続けていた「脚本を書け」という言葉をセミナー中に何度も繰り返していた。「まず、これから監督になろうと思っている人は脚本を書けなくてはダメですね」と語る原田監督は、従来の日本型叩き上げスタイルについて疑問を投げかける。「助監督を何年かやって経験を積んでから監督になるんじゃ遅いんですよ」ハリウッドでは助監督というのは専門職であり監督になるための修行の場ではないという。「助監督の仕事はスケジュール管理ですから、そこからプロデューサーになっても監督になる人はいない。日本のように演出部門をシェアするという考えはないのです」 1970年代初期からハリウッドでは、まず脚本を書いて監督になるという道が王道であり、(優れた)脚本を書くためには色々な脚本を読まなくてはならないと原田監督は強く提言する。「日本の脚本だけじゃなく、英語を勉強して海外の脚本も読まなきゃ。今の時代ならネットでも脚本を読めますから、過去の名作も含めてどんどん読んで吸収して欲しい」という原田監督は、脚本の命はセリフで、そこで人間をちゃんと描けなければ監督すべきではないと語る。だから原田監督の手掛けた作品はどれも登場人物たちのセリフが魅力的で、派手なアクションが無くてもグイグイ物語に引き込まれて行くのだ。例えば、『突入せよ!『あさま山荘』事件』と『クライマーズ・ハイ』に共通しているのは、描かれているのが事件そのものではなく、その事件に関わった周囲の人間を描いているということろだ。前者はあさま山荘事件の指示系統を巡る長野県警と本庁との意地のぶつかり合い、後者は日航機墜落事故の報道指針を巡る担当者間での意見のぶつかり合い。だから何度でも観たくなる。そこには優れた人間観察がなされており、それぞれの立場で主張する論点のズレが人間のおかしみを表しているからだ。 映画監督を志すクリエイターたちに向けて、原田監督が映画を作る上で最も大切な事として『理念・情熱・技術』という3つの要素を挙げる。「日本では理念や情熱が重視されて技術を軽視されがちだが、作る側としては技術が一番大事。特にショートであればあるほど、技術が前面に出て来なければダメだと思う」ここで原田監督が言う技術というのは、アマチュア監督が撮る作品を「映画」として成立させるための方法論だ。例えば、よく自主映画でありがちな出演者を身近にいる(俳優ではない)素人を使うという行為に対して「ちゃんとした演劇をやっているプロに頼むべき。全国にたくさんあるアマチュア劇団の役者の中には、手弁当でもいいから映画に出たいと思っている人は大勢いる。最初からダメだろうと諦めるのではなく、一度、話を持ちかけてみるべきだ」プロの監督が作為的に素人を使うのとは違い、まだ経験が少ない監督が映画を撮る場合、出演者がプロと素人の差は大きいという言葉は、まさにその通りだ。以前、原田監督が語っていた「人間って面白いと、思えるところがあれば映画というフィクションを作るに価する」という言葉を思い出した。原田監督は原作を映画化する時もリサーチして本物の線を見極め、それに(フィクションを)上乗せする。そう、それが映画なのだ。だから、監督になりたいのなら脚本を書くべきとセミナーの中で繰り返す。そこに『理念』があり、それを実現させるための『情熱』が生まれてくる。これから映画監督を目指すクリエイターたちに必要なのは自分の『理念』がどこにあるのか?そこを見極めた時点で、ひたすら『情熱』を傾ける。最近の映画はテレビドラマの影響からか、心に響くセリフが少ないと感じていたが、是非とも心にガツンと来るセリフのある映画を作ってもらいたいと願う。 取材:平成25年6月2日(日)ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2013会場 ラフォーレミュージアム原宿にて |
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