次郎長三国志第八部 東海一の暴れん坊
シリーズ最高傑作!森繁久彌演じる森の石松最期の花道。

1954年 白黒 スタンダード 103min 東宝
製作 本木荘二郎 監督 マキノ雅弘 脚本 小川信昭、沖原俊哉 撮影 飯村正 
音楽 鈴木静一 美術 北辰雄 録音 西川善男 照明 西川鶴三 原作 村上元三
出演 小堀明男、河津清三郎、田崎潤、森健二、森繁久彌、田中春男、緒方燐作、広沢虎造、山本廉
澤村國太郎、越路吹雪、小泉博、志村喬、青山京子、川合玉江、水島道太郎、小川虎之助、佐伯秀男
上田吉二郎、豊島美智子、広瀬嘉子、北川町子、馬野都留子、木匠マユリ、紫千鶴、本間文子


 東海道一の親分と言われた実在の幕末の侠客・次郎長一家を描いた“オール読物”に昭和27年から29年にかけて、連載されていた村上元三の同名小説を小川信昭、仲原俊哉が共同脚色し、映画化。昭和28年からスタートした『次郎長三国志』シリーズの8作目に当たる本作は、映画化が小説の連載を抜いてしまいマキノ雅弘監督による完全なオリジナルとなった。廣沢虎造の浪花節から始まるのはシリーズ一貫した構成で、作中も登場人物たちがミュージカルさながらに軽妙に歌うのが特徴。次郎長の刀を讃岐の金比羅様に奉納する大役を任された石松が無念にも闇討ちに合い悲惨な最後を遂げる。森の石松を演じるのはシリーズ2作目から登場した森繁久彌。石松が惚れる女郎の夕顔を演じたのは新人の川合玉江。本作から登場の小政を演じるのは久しぶりの映画出演となる水島道太郎。石松と小政が惚れた女について語り合う藤の花が咲く小川のシーンは屈指の美しいシーンとなった。飯村正の撮影による夜の映像は石松が殺されるシーンでも手腕を発揮している。主な出演者は前作と同様、清水の次郎長を 小堀明男が演じている他、 河津清三郎、 田崎潤…とお馴染みの顔合わせ。今回は『七人の侍』の志村喬、『風立ちぬ(1954)』の青山京子、『赤線基地』でデビューした川合玉江などが新しく出演する。


 清水一家は次郎長女房お蝶と豚松の法事の日。百姓姿の身受山鎌太郎(志村喬)が受付に五両置いたのを石松(森繁久彌)は二十五両と本堂に張り出した。さて読経の声もたけなわ、死んだ豚松の母親や許婚お静が来て泣きわめく。鎌太郎の諌言までもなく次郎長(小堀明男)は深く心打たれていた。法事を終えた次郎長は愛刀を讃岐の金比羅様へ納める事になり、選ばれた石松は一同心ずくしの八両二分を懐に旅の空へ出た。途中、知り合った浜松の政五郎(水島道太郎)にすっかりノロけられた石松は金比羅様に刀を納めると、その侭色街に足を向けて、とある一軒の店へ入った。夕顔(川合玉江)というその女の濡れた瞳に惚れた石松は八両二分をはたいて暫く逗留、別れ際には手紙迄貰って讃岐を去った。近江で立寄った身受山鎌太郎は先の二十五両を石松に渡して義理を果し、石松の落した夕顔の手紙に同情して、夕顔を身受して石松の女房にする事を約した。しかし東海道を急ぐ石松は幼馴染の小松村七五郎お園夫婦の許に寄る途中、草鞋を脱いだ都田村吉兵衛に貸した二十五両がもとで、騙討をかけられ、偶然会った政五郎に見とられながら死んだ。石松の死を知った次郎長一家が東海道を西に急ぐ頃、清水へ向う二人…それは鎌太郎と身受けされた夕顔であった。


 マキノ正博監督が東宝で製作した全9作にも及ぶ『次郎長三国志』シリーズ。まだテレビの無かった時代、人々はこうした連続活劇を映画館に足を運んで楽しんだのである。毎回、新しいキャラクターが登場して次郎長一家の仲間に加わるのが本シリーズの面白いところ。その中でも秀逸な異彩を放つキャラクター森の石松を演じた森繁久彌は、当時、まだまだ無名の新人。誰もが知っている森の石松を無名の俳優にやらせる事に会社は、難色を示した。当たり前だが、そこで客を呼ぶわけだから東宝としては売れっ子のスターを起用したかったわけだ。その影には、マキノ監督に森繁が「是非、やらせてほしい」と直談判して監督が周囲の反対を押し切って採用したといういきさつがあった。ところが、回を追う毎に森繁の人気は上昇を続けるのだから東宝の役員は、さぞかし驚いた事だろう。シリーズも後半、8作目にあたる本作は、森繁演じる森の石松最後の作品。シリーズ一の愛すべきキャラクター森の石松が無念の最後を遂げる作品だけに手を抜けなかっただろう。本作は完全に森の石松だけにスポットを当てつつも、あえて、マキノ監督は講談とは違う森繁の石松を作り上げようとしたという。だからこそ、有名な三十船の「酒飲みねぇ、寿司食いねぇ」のシーンはカットしている。また、原作にはない讃岐の女郎・夕顔との恋のエピソードを加えた結果、森繁一世一代の名演技を引き出し、シリーズ最高傑作となった。
 マキノ監督は、本作をシリーズ完結編にしても良いのでは?考えた程、完成度は非常に高く、本作だけ初めて観たとしても充分満足のいく作品として仕上がっている。森の石松が罠にはまり、最後を迎え、ラストで次郎長一家が仇を討つために海岸を走るシーンで物語は終わる…という余韻を残す素晴らしいエンディングだった。それだけに出演者とスタッフの意気込みが画面からひしひしと伝わってくる。それが面白くない訳がないのだ。それまで、シリーズは最後に次郎長一家のチャンバラシーンで締めくくられ、スカッとして終わるというのが定番であった。しかし、本作で描かれるチャンバラシーンは石松が吉兵衛一家の闇討ちに合うシーンのみ…という悲劇的な要素が強い作品となっている。無茶ばかりしていた石松が一人の女性を愛し、“死”に対する感覚に変化が訪れ愛する人のためにも死ねないとさえ思うようになる。これは、道中出会った水島道太郎演じる小政が野宿しながら惚れた女について語るシーン(月明かりの下、一面に咲く藤の花が実に美しい名シーンだ)があるのだが、ここで石松の中で何かが変わる。せっかく、石松の恋は成就して自分は死んではならないと分かっていたはずなのに、斬られてしまう。その瞬間、石松の潰れた片目が無念中でカッと見開く(マキノ監督は本作のタイトルを“石松開眼”にしたかったらしい)。この石松の最後を観たとき、この時代にこういった悲劇性溢れるシーンを山場に持ってきたマキノ監督はやっぱり凄い!と思った。劇中、越路吹雪が詠う「夕顔は宵には咲けど、朝には身を売る花ぞ恋忘草」という御詠歌が忘れられない。

「おらぁ死なねぇよ。死ねねぇんだよ」吉兵衛一家に囲まれた石松が、愛する女性のために死ぬわけにはいかない…と悟る。この台詞は、小政がかつて石松に言った言葉である。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
喜劇 駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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