警察日記
ユーモアとペーソスの交錯、人間の美と醜が奏でる愛情の交響楽!

1960年 モノクロ スタンダード 110min 日活
製作坂上静翁 監督 久松静児 脚色 井手俊郎 原作 伊藤永之介 撮影 姫田真佐久 音楽 団伊玖磨
美術 木村威夫 録音 中村敏夫 照明 岩木保夫
出演 三島雅夫、森繁久彌、十朱久雄、織田政雄、殿山泰司、三國連太郎、宍戸錠、伊藤雄之助
小田切みき、東野英治郎、岩崎加根子、飯田蝶子、杉村春子、左卜全、多々良純、三木のり平
沢村貞子、二木てるみ、坪内美子、千石規子、香川良久、稲葉義男、天野創次郎


 東北地方の田舎町にある警察署に勤務する警官たちを通して、東北農民の宿命的な問題―貧しく不幸な生活に打ちひしがれている人々、土地の無い貧農の息子、売られてゆく娘たち―を取り上げながら、そこに暮す人々の本来持っている真の姿を明るいタッチで描いている。日活入社第一回の坂上静翁の製作で、名作“鳶”で知られる伊藤永之介の農村文学を風俗映画の鬼才と謳われている『母の初恋』の久松静児が監督。脚色は、長年に渡り久松監督とコンビを組んでいる『女人の館』の井手俊郎。撮影は『壮烈神風特攻隊』の姫田真佐久が担当し、雄大な会津磐梯山を背景に美しい田舎の風景をフレームに捉えている。日活初出演の森繁久彌が初めて久松監督と顔を合わせ、以降数多くのでコンビを組む事となる。当初、東宝の『夫婦善哉』に出演予定だったがクランクインの大幅な遅れによって本作への出演が実現した。その他の出演者は『女人の館』の三國連太郎、『近松物語』の十朱久雄、「忠臣蔵(1954)」の三島雅夫のほか杉村春子、織田政雄、小田切みき、伊藤雄之助、東野英治郎、沢村貞子、飯田蝶子など豪華な顔ぶれを揃えている。また、子役時代の二木てるみが愛らしい演技を披露し話題となった。日本映画史上『二十四の瞳』に続く文部省特選を受けている。


 東北地方の田舎町の警察署。署には頑固な石割署長(三島雅夫)、金子主任、赤沼主任、人情家の吉井巡査(森繁久彌)、純情な花川巡査(三國連太郎)、剣道自慢の署長の相手役藪田巡査(宍戸錠)、倉持巡査等がいる。刑事部屋は毎日様々の人で大にぎわいで、今も窃盗容疑の桃代、神社荒しの容疑者お人好の岩太(伊藤雄之助)が取調べを受けている。駅前では戦争で子供達を失くしてから頭の変な村田老人が交通整理中である。ある日吉井巡査は幼いユキコ(二木てるみ)と赤ん坊の姉弟の捨子を発見した。預ける所もないので、赤ん坊は料亭の内儀ヒデ(沢村貞子)が、ユキコは自分が引きとった。花川巡査はもぐり周旋屋杉田モヨ(杉村春子)に身売りされかけた二田アヤを保護したがアヤはお金のためにまた町を抜け出そうとしたので、彼は給料をさいてお金をやった。モヨは人身売買の件で検挙されたが平然としていた。セイと息子の竹雄が万引で捕って来たが彼女は亭主に逃げられたのだった。通産大臣が帰郷し、町長や署長等役人は大騒ぎであった。交通安全週間中だというのに大臣一行の傍若無人な振舞に町の人々は唖然とした。その夜母親シズが二人を引き取りに署へ来たが子供達が幸せと知ると安心し子供の顔を一目見て東京へ去った。セイと竹雄が無銭飲食で挙げられ、セイの夫重四郎も取調べをうけていたが、金子主任にさとされ一緒に帰って行った。花川巡査はアヤから手紙を受け取ったが、中には彼に返す為のお金と真赤な紅葉が入っていた。


 美しい会津磐梯山をバックに田舎道をバスが走る映像から始まる雄大なオープニング。福島県の海沿いにある小さな田舎町の人情味溢れる警察官たちと、そこに暮らす人々の姿をのどかな田園風景を背景に描いている。三国連太郎演じる新米警官が保護した娘を送り届ける際に湧き水を飲むシーンがあるのが美味しそうで印象に残った。きっと、昔はこのような場所があちこちにあったのだろう。久松静児監督の温かい視点は、町の警官たちが遭遇する様々な出来事(当事者にとっては重要なわけだが…)を通じて、日本の良き風景や生活が変わりつつある事を優しく訴えかけてくる。森繁久彌は、署の中でも中心的な存在の吉井巡査(おまわりさんと言った方が似合っているかも)。老けメイクを施してベテラン巡査を愛嬌たっぷりに演じる森繁が関わる事件は、捨て子。戦後、間もない当時は、生活に困って子供を捨てる親が多かったと聞く。これも久松監督の訴えたかった事だろう。今の時代を格差社会というが、戦後の格差に比べれば、現代は食べられるだけまだマシだ。他にも、亭主が行方不明になったため息子を連れて万引きしたり、無銭飲食する母親が出てくる。辛いのは、無銭飲食したのは息子だけで母親は一口も食べていないのだ。子供だけでも何とかしたい…でも他人には迷惑を掛けない…という母親の姿に胸が締め付けられる思いだ。話を元に戻そう…幼い姉とまだ乳飲み子の弟の面倒を方々かけずりまわってお願いする森繁だが、結局お姉ちゃんの方を自分が預かる事になる。こうしたお人好しぶりが、実に自然でわざとらしくなく、この演技が後の人気テレビドラマで演じた病院の院長に通じるものがある。子役の二木てるみが実に可愛らしく、久松監督が何度も彼女の顔をソフトフォーカスでアップにする気持ちが良く分かる。離れて暮らす弟の様子を伺いにヨタヨタと夜の通りを歩く姿は、それだけで涙が溢れてくる。子供を捨てた母親が、生活の見通しが立たないからと、子供たちを車の中から遠巻きに見て、再会するその日が来るまで頑張って働く事を胸に誓う。その際に、母親がよく見えるように…と、玄関先まで子供たちを連れ出して車上の母親に見せてやる森繁の演技が涙を誘う。
 この町に住む人々は誰もが純朴に描かれており、また冒頭でいきなり恋い焦がれていた娘に振られてしまう村の青年を演じた伊藤雄之助も、酔いつぶれて警察に泥棒と間違われる等、実にほのぼのしたものだ。昭和30年の田舎町は、どこでもこんな雰囲気だったのだろうか?結婚式だと言っては大騒ぎ、政治家が来ると言っては大騒ぎ、火事だと言っては大騒ぎしているのだから、毎日が楽しくて仕方ないだろう。今では、そんな世界は、御伽噺にしか存在しない。もう日本中どこを探しても、久松監督が描く、こんな場所は無くなってしまった。そんな中、印象に残るのはエンディングだ。駅で見送られる3人の人物たち…。家族のために隣村の年寄りの元に嫁ぐ娘と、子供たちの幸せを祈って東京へ旅立つ母、そして自衛隊に入隊するために初めて町を離れる青年の表情が各々映し出される。汽車に揺られて、泣きながらにぎり飯を頬ばる青年と、窓の外に広がる会津磐梯山を見ながら涙する母親の姿。オープニングの映像では村に向かうバスを追い続けていたが、エンディングでは村を出て行く人々を映し出す。皆が皆、希望を抱いているわけではない。このエンディングは、久松監督が精一杯生きている人々に贈るエールなのだ。

貧困の家のために美を売る覚悟の娘が若い警官に言うセリフ。「明日の事なんか考えていられねぇんです!」庶民と公務員との意識の差は、戦後から現在に至るまで平行線を辿っているのだ。


レーベル:(株)日活 販売元:日活(株)
メーカー品番:DVN-104 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,990円 (税込)

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
喜劇 駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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