皆既日食の午後に
その日 交差する、それぞれのストーリー

2011年 カラー シネマスコープサイズ 14min Pacific Voice製作
プロデューサー 諏訪慶 ラインプロデューサー 中曽根広樹 監督、脚本、編集 常盤司郎
音楽 Superfly 撮影 梅根秀平 録音 杉田信 美術 杉崎典子 ガッファー 薮内利樹
出演 濱田龍臣、新井浩文、南沢奈央、田口トモロヲ

『皆既日食の午後に』オフィシャルサイト http://www.shortshorts.org/2011/ja/eclipses-shadow/


 21年ぶりの皆既日食が訪れようとしている夏の午後、窓際で退屈そうに外を眺める少年(濱田龍臣)の視界に飛び込む怪しげな人影。窓ガラスを割り、隣りの家に入ってゆくその男(新井浩文)の姿に何故か心躍る。そしてその家に荷物を届けるため、車を走らせる宅配の中年男(田口トモロヲ)と無愛想なバイト娘(南沢奈央)。全く関わりのなかった男女3組が、何故か皆既日食のこの午後にだけ出会ってしまう。太陽と月が重なるように、小さな悩みを抱えた登場人物達の心が重なった瞬間、21年ぶりの贈り物が届こうとしていた…。


 ミュージックShortフィルムと一口に言ってもクリエイターの捉え方によって映像と音楽の絡め方に(当たり前だが…)バラつきがある。共通しているのは音楽という原作があるという事。そこから発生するインスピレーションからどんな映像を作り上げるか?は監督次第…何らかの規定があるわけではない。だから、中には「これって完全にPVでしょう?」という作品があるのも事実だ。勿論、その楽曲にインスパイアされたイメージが、たまたまPV風になってしまっただけなのだろうが…。残念ながら観客の印象が全てである以上、クリエーターにとってサジ加減が難しいジャンルである。
 しかし、常盤司郎監督がSuperflyの新曲Ahをモチーフに生み出した本作はお世辞抜きで、「これぞ求めていたミュージックShortフィルム(音楽・短編・映画)」だった。ミュージックShortとして重要な「楽曲に適したストーリー」「楽曲の使い方」と「楽曲の流れるタイミング」が正にドンピシャなのである。しかも皆既日食という非日常的な現象を用いるという独創性が更に楽曲の持つ崇高なイメージを引き立てているのだ。初めてAhを聴いた時、讃美歌が頭に浮かんだ常盤監督はたくさんの人が癒される群像劇を作ろうと考えたという。宗教によっては日食を不吉とする考え方もあるが、皆既日食で暗くなって行く街の様子は、母親がそっとカーテンを閉じていくようにも見える。それはまるで、上手く行かない親子関係、一人ぼっちで母の愛に疑問を抱く子供に向かって、神様がゆっくり考えるチャンスを与えてくれているようではないか。
 常盤監督の作る色彩は実に優しい。前作『クレイフィッシュ』でも屋内と屋外の光のコントラストが透明感溢れる雰囲気を醸し出していたが、今回もやはり光のトーンが重要な役割を担っている。印象に残るのは、薄暗い部屋の中で留守番をしている濱田龍臣演じる少年が窓から隣家の庭先を覗くシーン。外から入ってくる自然光が柔らかい逆光となって濱田少年の顔を照らす…この色彩を抑えた映像から常盤監督の繊細なセンスが感じられる。確か『クレイフィッシュ』でも室内から外にカメラを向けて逆光となるシーンの記憶があるが常盤監督ってこういう画を得意とされているのだろうか。(今度、夏目漱石とか純文学に是非チャレンジしてもらいたい。『それから』なんてピッタリだと思うのだが…)
 4人の主要な登場人物たちのバランスも良い。骨折した少年、隣家に不法侵入しようとする若者、そして宅配業者のイケてない中年男と生意気な小娘…なんの接点もなさそうなバラバラの世代の人間たちが皆既日食によって、ひとつに融合する。15分弱という短い時間内で完結させるにはギリギリの構成と思われるが、常盤監督は見事に全てのキャラクターを活かしきっていた。これはセリフに頼らずカットの積み重ねで登場人物たちの背景を説明出来ているからだ。それはテーブルの上の作り置きされた料理とお母さんからのカードだったり、ところどころ写真が剥がされたアルバムだったり…。カット割で観客に想像させる巧みな映像話術によってスッキリ簡潔にまとめ上げられているのだ。そして、実は何よりも上手いのは曲を終わらせるタイミングだ。常盤監督はフルで聴かせる事なくスパッと途中で曲を切ってしまう。下手な演出家だったらフルコーラスを聴かせたくなるところだろうが常盤監督は潔く作品のトーンを切り換えてしまったのだ。そこで張り詰めた緊張感が一気に緩む…という不思議な効果を生み出していた。さすがである。

ちなみに、本作を観た後、iTunes StoreでAhを購入してしまった。どうしてもフルコーラスで、この美しい曲を聴きたくなったからだ。この作品について語るとするならば…つまり大事なのは、そういう事だ。


iPhone、iPad、アンドロイド携帯用アプリケーション
■販売場所:App Store, Android Market
■期間限定特別価格:6月29日〜8月31日¥350→¥230
■特典
(1)作品紹介 (2)スタッフ&キャストコメント (3)メイキング映像
(4)映画「皆既日食の午後に」脚本 (5)Superflyによる「Ah」/「あぁ」
■発売元:株式会社パシフィックボイス

【常盤 司郎監督作品】

平成20年(2008)
99%の自殺

平成22年(2010)
クレイフィッシュ

平成23年(2011)
皆既日食の午後に

平成29年(2017)
終着の場所

令和1年(2019)
最初の晩餐




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