終着の場所
近づくほど、せつなくなる。
2017年 カラー シネマスコープサイズ 19min LDH PICTURES配給
エグゼクティブプロデューサー EXILE HIRO 企画プロデュース 別所哲也
監督、脚本、編集 常盤司郎 プロデューサー 大蔦論、白神裕治
ラインプロデューサー 堀内優 音楽 三代目 J Soul Brothers 撮影 阿藤正一
照明 高倉進 美術 佐々木麗子 録音 菰田慎之介、古谷正志
出演 町田啓太、玄理、柳英里紗、古舘寛治
遠く離れた場所から互いを想っていたはずの二人は、ある冬の日、待ち合わせの場所に向かうため列車に乗り込んだ。その旅の途中、不意に彼女から告白めいたメールが届き、それきり連絡が途絶えてしまう。「私、あなたに話したいことがある」そのメールに込められた意味とは…。ずっと出会うことのない登場人物たちのモノローグで綴られる、男女の心の奥底を問う、痛く儚い愛の物語。
ラストカットから暗転…エンドロールが流れ始めると、それまで静まり返っていた場内が俄かにざわめいた。いや、むしろ場内の空気が膨れ上がった…と言った方が正しいだろうか。EXILEのHIROが、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアとのコラボ企画として実現した“シネマファイターズ”全6作品のひとつ、映画祭の常連である常盤司郎監督が手掛けた『終着の場所』プレミア上映会での出来事だ。長年、この映画祭に参加してきたが、こんな光景は初めての出来事だった。
この映画は遠く離れて暮らす恋人たちが、待ち合わせの場所に列車で向かうまでを描いた、ある種ロードムービー(ショートフィルムでは珍しい)の形をとっている。中間の駅で落ち合う約束をしている二人。男の乗る列車の窓から見える景色から、かなり遠くに来たんだな…というのが分かる。もうひとつ驚くのは二人が乗る列車の車内。女が乗る列車が4人掛けの古びたボックスタイプ(途中から新しいタイプになるという細かなこだわりも見せる)であるのに対して、男が乗る列車は横一列のベンチタイプであること。車両の違いで田舎と都会にいる二人の距離を映像で分からせるという丁寧な作業に感服。ロケ撮影に手間を掛けると映像の奥深さに反映する…というのがよく分かった。
またここでは、駅のホームが重要な役割を果たしている。二人がホームに降りる度に少しずつ明かされる事実…登場する様々なホームは、もうひとつの主役と言っても良いだろう。そんな駅の情景を見事に捉えたのは、『tokyo.sora』や『告白』を代表する中島哲也監督作品で、素晴らしい映像を作り出してきたカメラマンの阿藤正一。曇天の硬めの陽光に浮かぶホームだったり、緩やかに滑り込んで来る列車だったり…その映像美に思わず感嘆の溜息。 そう言えば、カメラマンは違うが、常盤監督のデビュー作『クレイフィッシュ』でも雪景色の田舎駅のホームが映画の核となっていた。やはり映画はロケーションによって6割が決まる(…というのは私の持論)。
町田啓太演じる主人公は、列車の中で、駅のホームで、玄理演じる恋人にラインを送る。久しぶりに会えるのを楽しみにしていた主人公だったが、彼女から送られてきた「あなたに話したいことがある」という文字に戸惑う。ラインの向こうの彼女の心に何が…?待ち合わせ場所に近づくにつれ、二人の温度差は大きくなっていく。ところどころで挿入される心象風景、とりわけ雨粒が激しくアスファルトを叩く映像が男の心を表現する。常盤監督は時間軸と空間軸、そして感情軸といった異なるベクトルを不整合に重ね合わせる事で、ヒリヒリした緊張感を生み出す事に成功している。二人の間に漂う不協和音の出どころが見出せないまま、映画は次第にミステリアスな雰囲気を帯び始める。19分という時間の中、ここまでのドラマを作り上げた脚本と編集の完成度の高さ…見事だ。
前2作にも通じるが、饒舌過ぎず舌足らずでもなく…ともすれば複雑になりがちな物語なのに、全てのカットがコンマ数秒単位の絶妙な構成の上に成り立っている。例えば、意味深な彼女のインサートショットで観客の感情を掻き乱してから、彼女の過去を知る女性(演じる柳英里紗がイイ)を列車に同乗させるまでの下り。そこから先は監督が振るタクトに観客はラストまで振り回されるままだ。それは、ひとつのカットに何秒まで掛けられるか(観客は耐えられるか)を徹底的に吟味しているという常盤監督の編集美学と言って良いだろう。
この映画のモチーフとなる楽曲の使い方もイイ。エンドロールで使用する事を避けて、最も効果的なシチュエーションで見せる事で、詞そのものの持つ強さを際立たせる。これは『クレイフィッシュ』で笹川美和の曲が流れた時に覚えた感動と似ている。そして、ほんの数秒だけ映る駅のホームから主人公が見上げる打ち上げ花火のカット…鳥肌級の美しさだ。
「本気で泣いている女の子を…その時初めて見ました」二人の出逢いを語る主人公のモノローグ…この雰囲気こそEXILEの世界観でもある。