米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭として日本国内においても最大規模の映画祭にまで成長したショートショー フィルム フェスティバル & アジア。今年も東京国際映画祭との提携企画として、アジア映画に焦点を当てた『フォーカス・オン・アジア』が10月27日より東京都写真美術館にて開催。今年のSSFF & ASIA 2011の受賞作品を始めとする10作品に加えて、河瀬直美監督の呼びかけによって実現した東日本大震災をうけて世界各国の映像作家が3分11秒のショートフィルムを持ち寄った『3.11 A Sense of Home Films』の上映も行われた。そして、最終日には恒例の映像作家を志すクリエイターに向けたワークショップが開催。2007年に『檸檬のころ』で長編映画デビューを飾り、従来の青春映画には見られなかった新しくもどこか懐かしさを感じる少女たちの物語を作り上げた岩田ユキ監督を講師に迎え、ユニークな経歴を持つ自身の経験を元に映画製作について語られた。ワークショップに先立ち岩田監督に単独取材を行い、過去の作品から新作『指輪をはめたい』に至るまでテクニックやノウハウとは違う切り口でお話しを伺う事が出来たのでここで紹介したい。
岩田監督の作品に登場する女の子たちは、あえて妥協してまで他人に迎合しようとしない…自分の道をマイペースで歩いている少女が多い。ぴあフィルムフェスティバルで2004年に審査員特別賞を受賞した『新ここからの景』の主人公・歩も、『ヘアスタイル』のおさげの女の子も、ショートショート フィルム フェスティバル & アジア2010で優秀賞を受賞したミュージックショート『スキマスイッチ/8ミリメートル』の少女(彼女だけ特殊な設定だが)、そして『檸檬のころ』で谷村美月演じた白田恵にしても教室の中でちょっと浮き気味で、だからといっていじめられているわけでもない…友だち付き合いするにはちょっと面倒くさそうな子。「確かに『檸檬のころ』の白田恵には、私もそうだった!っていう…決して一人でいて平気な女の子ではないんですけど、一人になっちゃったからカッコつけて、平気よっていうフリを片意地張ってする姿が可愛くもあるしカッコ悪いなと思う。そんな中途半端な悩みを抱えている少女たちに共感するんです。」と語る岩田監督。男子生徒がイタズラ心で作ったクラスの嫌いな女子2位だった女の子が人気ナンバーワンの美少女に一矢報いる様子を屋上で見ていた歩が“くっそーカッケェー”とつぶやく『新ここからの景』のラストシーンに岩田監督の思いが如実に表れている気がする。「中途半端さに惹かれるのは自分と共通点があるから」という岩田監督自身、高校時代は“みんなと違う”と気張っていた時期があったそうだ。だから『檸檬のころ』でキャーキャー騒ぐクラスの女の子たちを睨みつけてウォークマンのボリュームを上げて一人パンを食べる白田恵のカットが可愛らしく映るのも(白田恵が音楽だったように岩田監督はイラストで自分の世界を作り上げていた)こうした実体験が脚本の中に盛り込まれているからであろう。
そうしたワンカットワンカットをセリフ以前に映像として表現する方法を常に模索しているという岩田監督。映像化する際、自身の記憶の中にある光や影、その時見た風景を再現しようと心掛けているという。「多少、非現実的になったとしても、それが自分の抱いているイメージなので…そこはこだわっています」こうした独特のスタイルは、岩田監督が持っているイラストレーターというもうひとつの顔…に因るところが大きいと思われる。「落ち込んでいる時に彼女の葛藤している表情のアップを映すという考え方もあると思うのですが、本人って怒られている時に上靴の先っちょを見ていたり、影が動いているのを見ていたりとかしていますよね」校庭に延びる影だったり水飲み場の蛇口だったり、詩情的な映像が時たま挿入されるのは、正に主人公たちの動揺した心の先でぼんやり見ているリアルな光景なのだ。「これって超個人的な事かも知れないけど登場人物を外側から写すだけじゃなく、主人公が見ている景色によって感情が伝われば映画の表現方法として良いのではないかと思っています」実は、この思いは映画制作を始めたころから現在に至るまで変わっていないという。最新作『指輪をはめたい』にしても岩田監督は自ら脚本を書く割には意外とセリフの頻度が少ない事に気づく。「自分の順番としては頭の中にまず画(え)が浮かんで、その次に脚本に取り掛かり、撮影時に絵コンテにて再び画(え)に戻しています。」一度文字にしてしまうと活字の面白さに引っ張られてしまうため、ややこしいやり方をしていますと笑う岩田監督。『檸檬のころ』のパンフレットに岩田監督の絵コンテが掲載されているがイラストの隣にト書きが入ってシナリオの役割を果たしているのが印象に残る。「勿論、自分の中で絵コンテを描く時に登場人物の表情も大事にしています。どこでどんな表情をするのかとか、彼女はどれだけ思いつめた表情でココにいるのか…というのを自分の中で確認しつつ、役者さんともブレないように細かく描くようにしています」なるほど…こうした手間を掛けているから岩田監督作品はどれもがワンカットだけを切り取っても一枚の画(え)として成立するのだろう。