スキマスイッチ/8ミリメートル
スキマスイッチのバラードから生まれた、8ミリフィルムをめぐる、かわいくて、せつない、ちょっと不思議なラブストーリー。
2009年 カラー HD 30min ソニー・ミュージックエンタテインメント配給
プロデューサー 原淳、平林勉 監督、脚本 岩田ユキ 音楽 スキマスイッチ
撮影 翁長周平 照明 柴田亮 録音 永峯康弘 美術 井上心平
出演 金井勇太、清水ゆみ、二階堂ふみ、松澤一之
『スキマスイッチ/8ミリメートル』オフィシャルサイト http://www.doramo.jp/
(C)2009 Sony Music Entertainment(Japan)Inc./Ariola Japan Inc.
自宅のアパートで転落死した筑紫春夫(金井勇太)には、触れられたくない宝物があった。彼の事故はかつての恋人・品子(清水ゆみ)の耳にも届くが、彼女は春夫の顔をまったく思い出せない。品子が、とある8ミリフィルムに導かれ春夫のアパートを訪ねると、そこには「わたしはハルオさんの妻です」と言う一人の不思議な少女(二階堂ふみ)がいた。
岩田ユキ監督の原点である自主制作時代のショートフィルムを思い出した。マペットを使ったポップで可愛い映像の中にちょっと毒っ気を放り込んでくる。5分にも満たない映像がしばらく頭から離れなかあったのは岩田監督がラストに向けて軸をブラさずストレートに物語を構築しているからだろう。短時間で一瞬にして強烈なインパクトを残せるのがショートフィルムの良いところだが岩田監督は自主制作の時代から既にその特性を活かしていたのだ。どうやら、その5分という時間は岩田監督の映像表現に適している区切りのように思える。10年後に手掛けたミュージックショート『スキマスイッチ/8ミリメートル』も1話が5分前後の5話から構成されており、だからだろうか…1話ずつのテンポが実に心地良いのだ。
主要な登場人物は三人…主人公ハルオと二人の女性。とすれば曲の内容から元カノを忘れられないハルオを近くで見ている今カノの悲しい三角関係か?等と勝手に想像力を働かせてしまったのだが、岩田監督はいとも簡単に、そんな安易な想像を裏切ってくれる。(あぁ…画面の奥から監督がせせら笑っている気がする)いきなり冒頭からハルオの死体(?)が横たわり、警官がチョークで現場検証の白線を引いていく。「あれ?僕死んじゃったみたい…」というモノローグに、原曲からは予想出来なかった展開に戸惑う。フィルムの中にしか存在しない昔の恋人を想う気持ちを歌った切ないラブソングであるにも関わらず、いきなり主人公を殺してしまう大胆さ(これが前述の毒っ気でもあるのだが…もっと言えば主人公は恥をかくべし!という岩田監督の一貫したテーマにも通じている)に直球勝負で挑む岩田監督の姿勢が伺い知れる。(打ち合わせの席でスキマスイッチのお二人が「まず主人公が死にまして…」という説明に一瞬たじろいだというエピソードも納得できる)
歌詞の中ではフィルムに映る彼女にしか触る事が出来ない主人公の悲しみを綴っていたが、映画の主人公は逆に現実の世界に存在しない(道に書かれた白いチョークの幽霊)ためリアルな彼女に触れられない…という逆転の発想に脱帽!せっかく彼女が部屋に来てくれたのに白線となったハルオの手は虚しく宙を切る…そんな切なさと可笑しさが同居したユーモラスなシーンが印象に残る。2話の最後で登場するハルオの妻と名乗る突然ベランダから入ってきたセーラー服姿の少女の正体が秀逸。(岩田監督は彼女の正体がバレるのはさほど問題ではない…と言っているのでネタバレ前提で続けさせていただくと…)ハルオの部屋で昔の彼女と現在の妻が向き合ううちに、どうやらハルオの事故はその子が原因である事が判ってくる。自責の念に駆られる少女の頭を「アナタのせいじゃない」と撫でる不可解な行動の次のカットで少女が猫に変わっている…という思わぬ展開に思わず目頭が熱くなる。また、ラストシーンにおける8ミリフィルムの切れ端を栞にしたアイテムの使い方も、文具デザイナーだった岩田監督ならではのセンスが光る。観終わるとホットミルクを飲んだような温かさに包まれる映画だった。
柔らかな陽射しが差し込むハルオの部屋。玄関からベランダに向けた逆行の映像…白いレースのカーテンと黄ばんだ畳の画面構成が見事です。ちなみに1回だけベランダから臨んだ部屋の全景カットがあるのお気づきですか?このシーン…じわ〜っと来ます。