|
『檸檬のころ』は豊島ミホの原作ありきの企画で岩田監督にとっても原作ものの脚色は初挑戦だった。原作は地方の町に暮らす高校生を中心としたいくつかのエピソードで綴られた短編集だが、そこから岩田監督は優等生でクラスいちの美少女・秋元加代子と授業中に音楽ばかり聴いているプチ問題児・白田恵が主人公のエピソードを選んでいる。対極にある二人が殆ど会話を交わす事なく物語は進行していくが、クライマックスの文化祭で秋元が発した一言で二人の距離が一気に縮まる。実は映画で一番の見せ場となる文化祭のシークエンスは原作とは違った設定となっているのだ。「原作の中でも一番美しいシーンだと思うんです。思ってもいなかった人から思いがけない大事な言葉をもらう瞬間って私たちの人生で何度かあって…そんな積み重ねで今の自分がいるわけですから。この濃度の濃い一瞬を描きたいがために二人のエピソードを選んだと言っても良いですね」原作とは違う設定というのは白田恵は自分の作詞した曲を片想いだった軽音部の辻元に提供しながらも肝心の演奏を原作では聴いていない。そこを岩田監督は曲の真ん中あたりで体育館に走って飛び込んで来た彼女に演奏を聴かせるのだ。「勿論、映画ですから音楽で感動させたいという思いもあったのですが、この一連のシーンで感情のバトンが回っている感じにしたかった」という岩田監督。曲を聴いて感動した秋元が白田に思いを伝え、教室へ戻ろうとしていた白田は踵を返して辻元にお礼を伝えにステージへ向かう。その時、確実に彼女の中で何かが変わって、後片づけをしている辻元に“ありがとー!凄く良かったー!”と叫ぶ不器用だった少女の姿にカタルシスを感じる素晴らしいシーンとなっていた。
原作はアイテムが多くそれを通過して結末に向かうという内容だったので、原作を一度崩して構築し直したという岩田監督。オリジナルを作る時は、主人公の性格の初期設定をした上で、どれだけ主人公をイジいめていくか…主人公の感情をどう動かすかを軸に出来事を付けていき、気がついたら「あっ、これが答えだったんだ」というところに辿り着く。この方が“あるべき場所に落ち着く”のだという。そんな岩田監督が一番嫌うのは主人公の気持ちのつじつまが合っていない事。「それって、観ていて気持ち悪くて、矛盾が生じたら設定を何度も直して行きますね」その結果、商業映画としては異例な程、脚本の完成に費やした修正回数は20回にも及んだという。「修正する度に主人公の感情に乗って動かしていくので、ちょっとこの部分だけっていうのが出来ないんですよね」と言われる通り、その度に後半が変わっていったという。チグハグをとことん嫌う岩田監督らしいエピソードだが、こうしたこだわりが作品のクオリティーを上げるだけではなく登場人物に観客が感情移入出来る要因でもあるのだ。 取材:平成23年10月30日(日)“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア「フォーカス・オン・アジア」”ワークショップ会場 東京都写真美術館にて
|
|
Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou |