極道の妻たち 最後の戦い
さようなら、戦争忘れた男たち

1990年 カラー ワイド 116min 東映(京都撮影所)
製作 奈村協、天野和人 監督 山下耕作 脚本 高田宏治 原作 家田荘子 企画 日下部五朗
撮影 木村大作 音楽 津島利章 美術 井川徳道 録音 伊藤宏一 照明 増田悦章 編集 市田勇
出演 岩下志麻、かたせ梨乃、哀川翔、石田ゆり子、緒形幹太、西村和彦、森永奈緒美、浜田晃
須賀不二男、小林稔侍、津川雅彦、三上真一郎、中尾彬、須賀不二夫、野口貴史、南雲勇助
曽根晴美、菅貫太郎、品川隆二、磯部勉、平泉成


 妻の座よりも重い、極道の看板を陰で支えて、修羅の道を歩く女たちの姿を描いた家田荘子原作の同名小説第1作以来、ヒットを続けたシリーズ第4作にして完結編となった本作は、二つに割れて対立する関西の広域暴力団の抗争の前面に立つ極妻たちの姿を描く。姑息な策略で生き延びようとする男たちに対して、シリーズの志を継ぐ女たちは、またしても誇りと本音で勝負する。女同士の契りの盃を手始めに、拳銃を握りしめての殴り込みに至るまで全編がクライマックスの連続となっている。監督は『博奕打ち 総長賭博』『緋牡丹博徒』等数々の東映任侠映画の名作を手掛けた山下耕作。自分なりの岩下志麻の魅力を引き出すために、あえてシリーズを見ずに臨んだという。脚本を『鬼龍院花子の生涯』の高田宏治、撮影は『夜叉』の木村大作と最高のスタッフが結集されている。特にラストシーンは山下監督が「闇夜に咲く花のイメージ」とこだわり抜き、木村大作のカメラによる美しい映像が残された。


 関西地区を牛耳る広域暴力組織の中松組が跡目相続問題で分裂した五年後、枝分かれをした川越会本部では病床の川越会長をはじめ、幹部連中が集まっていた。その中に服役中の瀬上組々長瀬上雅之(小林稔侍)の妻芙有(岩下志麻)の姿もあった。夫の服役中、組織の運営を務めている芙有は、現在の川越会のやり方に不満を抱き、事ある毎に衝突していた。ある日、五年前に中松組の銃弾で夫を失った伊勢夏見(かたせ梨乃)という女が残った組員の根津豊(哀川翔)を連れて大阪へやって来きた。豊は組長の仇と勘違いして瀬上組に銃弾を撃ち込むという事件がおきてしまう。その事件の謝罪にやって来た夏見の堂々とした姿を芙有は気に入り、二人は固い友情で結ばれるのだった。亡き夫の復讐に燃える夏見は、瀬上組を中松組と互角に張り合える組織へ拡大しようとする芙有に協力するが、川越会系組長の光石の裏切りにあい、夏見は乱闘の末光石を射殺しそのまま身を隠してしまう。夏見からの連絡も途絶え、芙有の心配をしていた矢先、夏見は仇である中松組々長田所亮次(中尾彬)の前に姿を現し、田所を射めようとするが、逆に銃弾を浴び息絶えてしまう。出所後、中松組におだてあげられていた瀬上は結局自分がただの道化役であったことに気付き、戦争を再開しようとするが、芙有は豊らを連れて組を去って行く。そして夏見の死に決着をつけるべく、芙有は田所に銃口を向け射止めるのだった。


 数々の東映任侠シリーズを手掛けてきた山下耕作監督を持ってして「今回のテーマは岩下志麻です」と製作記者会見の場で述べる程、シリーズ完結編に当たる本作は岩下志麻無くしては成り立たなったであろう。かつて『緋牡丹博徒』シリーズで藤純子をスターの座に押し上げた山下監督は、現代のヤクザ社会で、自分の地位を確保するために迎合し、プライドをどこかに追いやってしまった男たちに代わって、岩下志麻演じる姐さんは組みの名誉を重んじ、真っ向から勝負を挑んでゆく。それまでの本シリーズは、主人公は夫である組長を支える姐さん…という位置づけだった(勿論、それでもグイグイ組長不在の組を引っ張って行くのだが…)。ところが今回、出所して「さあこれから組のためにやってもらおう」と思っていた小林稔侍演じる組長が、敵対している組に歩み寄ってしまう始末。これじゃあ、それまで看板を必死になって守ってきた志麻さんの面子は丸つぶれ…それどころか、組の存続も危うくなってくるわけだから、骨抜きになった組長に代わり志麻姐さんが立ち上がるわけです。まぁ、とにかくカッコイイ!妖艶な美しさもさることながら、啖呵の切り方といい、若い者を引き連れてさっそうと歩く姿といい、どれを取ってもカッコ良過ぎるのだ。スクリーンを通じても彼女のオーラが充分に伝わってくるほど、今までのシリーズにはない岩下志麻を堪能出来る。案の定…試写会では女性ファンから、いつも以上に熱狂的に迎えられたというのも当たり前の話しだ。
 また、本作で素晴らしいのはシリーズ常連であるかたせ梨乃。志麻さんが静的な凄みを有しているのに対してかたせ梨乃は、動的でパワフルなカッコ良さを有している。彼女も本シリーズで様々な役を演じてきたが本作が一番!さすが山下監督、かたせ梨乃に昔ながらの任侠映画にあった息吹を注ぎ込んでいるようだ。彼女の子分が、早まって岩下志麻の組に銃弾を撃ち込んだため謝罪に乗り込んでくるシーンなんか、あまりのカッコ良さ(迷彩服にサングラスをかけた彼女は何とも言えない色気を持っている)にジーン…と、目頭が熱くなってしまった。
 この二人の常連が名匠山下監督の手にかかると今までにない見せ場と輝きを発する。『極道の妻たち』が始まって4年…女が強くなったのか男が弱くなったのか…それとも極道の組織体制というものが根本的に変わってしまったのか。今までのシリーズと明らかに異なるのは、志麻さん演じる姐御のスタンスだ。前半は服役中の夫を待ちつつ組を守る姐さんの姿が描かれ、小林稔侍演じる組長が出所してから孤独な戦いを余儀なくされる女極道の姿が描き出される。女であるが故に男社会の世界で孤立せざるを得ない…肝心の夫ですら味方になってくれないのだから、今回の戦いは今までにない厳しいものだ。本当は失望しているはずなのに顔色ひとつ変えずに相手を見据える志麻さんの表情がスクリーンいっぱいに映し出されると、本当にイイ顔だなぁ〜と思う…志麻さんは、こうしたアウトロー的な役がよく似合うのだ。小林稔侍が逆上して刀を振り回すシーンでは反対に刀を奪い取って、自らの足に突き立てて見栄を切る。凄い!まるで歌舞伎のような美しさと品格が溢れる名場面だ。更にラストで怒りに燃えた志麻姐さんが、的の組長を表情ひとつ変えずに撃ち殺し、夜の街をさっそうと歩きフレームアウトする場面こそ任侠映画の原点に立ち返った名場面だ。

「斬るちゅうのは、こうやるんや!」いつの間にか変わってしまった夫に対して失望し、自らの足に刀を突き刺して、岩下志麻が言う一言。


レーベル: 東映ビデオ(株)
販売元: 東映ビデオ(株)
メーカー品番: DSTD-2307 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,253円 (税込)

昭和35年(1960)
乾いた湖
笛吹川
秋日和

昭和36年(1961)

あの波の果てまで
好人好日
京化粧

昭和37年(1962)
千客万来
切腹
秋刀魚の味  

昭和38年(1963)
古都
風の視線
島育ち
結婚式・結婚式
結婚の設計

昭和39年(1964)
いいかげん馬鹿
暗殺
五辧の椿
大根と人参

昭和40年(1965)
雪国
暖春

昭和41年(1966)
春一番
暖流
紀ノ川
処刑の島
おはなはん

昭和42年(1967)

春日和
智恵子抄
激流
あかね雲
女の一生

昭和43年(1968)
爽春
祇園祭

昭和44年(1969)
心中天網島
赤毛

昭和45年(1970)
無頼漢
影の車

昭和46年(1971)
内海の輪
婉という女
黒の斜面
嫉妬

昭和47年(1972)
影の爪

昭和49年(1974)
卑弥呼

昭和50年(1975)
桜の森の満開の下

昭和51年(1976)
はなれ瞽女おりん

昭和53年(1978)
雲霧仁左衛門
鬼畜

昭和56年(1981)
悪霊島

昭和57年(1982)
鬼龍院花子の生涯
疑惑

昭和59年(1984)
北の螢

昭和60年(1985)
魔の刻
聖女伝説

昭和61年(1986) 
近松門左衛門鑓の権三
極道の妻たち

昭和63年(1988)
桜の樹の下で

平成2年(1990)
極道の妻たち
 最後の戦い

少年時代

平成3年(1991)
新極道の妻たち

平成5年(1993)
新極道の妻たち
 覚悟しいや

平成6年(1994)
新極道の妻たち
 惚れたら地獄

平成7年(1995)
極道の妻たち
 赫い絆
鬼平犯科帳

平成8年(1996)
霧の子午線
極道の妻たち
 危険な賭け

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成15年(2003)
スパイ・ゾルゲ




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