女王蜂
燃える紅葉の下で、はらはらと命が散ってゆく。華麗な大道寺家の血に、恐怖の秘密が生きていた。

1978年 カラー スタンダード 139min 東宝映画
製作 馬場和夫、田中収 監督、脚色 市川崑 原作 横溝正史 脚色 日高真也、桂千穂 撮影 長谷川清
音楽 田辺信一 美術 阿久根巖 編集 小川信夫、長田千鶴子 照明 佐藤幸次郎 衣裳 長島重夫
出演 石坂浩二、高峰三枝子、司葉子、岸恵子、仲代達矢、萩尾みどり、中井貴恵、沖雅也、加藤武
大滝秀治、神山繁、小林昭二、伴淳三郎、三木のり平、草笛光子、坂口良子、白石加代子、常田富士男


 一通の警告状から端を発した、過去と現在を結ぶ凄惨な連続殺人事件に挑戦する金田一耕助の姿を描く、前3作品全てにおいて大ヒットを記録している東宝・横溝正史シリーズ第4作目の映画化。源頼朝の末裔という大道寺家の美女、智子をめぐり婚約者の座を狙う男たちが次々と殺される怪奇な連続殺人…。「彼女は女王蜂である」という一通の警告状から端を発し、過去と現在を結ぶ血みどろの惨劇の動機は何か?今回も難事件に挑戦する金田一の名推理に意外な結末が用意されている。数多い横溝作品の中でも、鬼気迫る泉鏡花調の壮絶さと、陰惨で複雑なストーリー展開を市川崑監督自ら、前作と同じ日高真也が脚本を担当。更にロマンポルノ等で異彩を発揮する桂千穂が共同執筆し、今までには見られなかった横溝ワールドが完成した。出演者にお馴染み金田一=石坂浩二を迎え、『犬神家の一族』の高峰三枝子、『悪魔の手毬唄』の岸恵子、『獄門島』の司葉子と、前作で各々犯人を演じた女優陣が一同に顔を合わせた。また、加藤武、三木のり平、草笛光子、坂口良子といったレギュラー陣の他にも『鬼龍院花子の生涯』『影武者』と大作続きの名優・仲代達矢、二枚目俳優・沖雅也、長い芸歴の中で市川崑監督作品に初めて出演する伴淳三郎等々、多彩な顔ぶれが揃った。更に、故佐田啓二の遺児・中井貴恵が映画デビューを飾り、大きな話題となった。


 昭和二十七年、伊豆天城の月琴の里にある大道寺家の大時計で、大道寺智子(中井貴恵)の求婚者の一人、遊佐三郎が殺害された。事件直後、大道寺家を訪れた金田一耕助(石坂浩二)は、十九年前の事件―日下部仁志が事故によって谷から転落死した真相を調べていた。日下部はその娘・琴絵と結婚の約束をしていたが、友人の代わりに銀造(仲代達矢)が琴絵と結婚したのだった。日下部と琴絵の間に出来た娘が智子なのだが、「智子に求婚する男たちは次々と殺されるであろう」という脅迫文を送りつけられていたのだ。警察は事件直前から智子の身辺に出没する多門達太郎(沖雅也)を重要容疑者として目をつけていた矢先に、やはり智子に求婚する赤根崎が第二の犠牲者となった。次々と起こる智子を巡る連続殺人事件。その背景には数十年前に起こった不幸な事故が複雑に絡んでいたのだ。一連の事件の犯人が銀造であると確信に近づくと、琴絵・智子の家庭教師として大道寺家に住んでいた神尾秀子(岸恵子)が自分が犯人であると告白し、銀造に向けて銃を発砲する。銀造を愛するが故に、罪をかぶろうとした秀子は、自ら胸を射ち絶命するのだった。


 金田一シリーズ3作品で犯人を演じた女優が一同に介し、更に東宝が鳴り物入りで贈る大型新人(故・佐田啓二の娘)中井貴恵のデビュー作でもある等、かなりイベント的要素が強い作品となっている。今回の舞台は天城(月琴の里と呼ばれる架空の土地)から京都に移り、源頼朝の子孫と言われている大道寺家の娘を演じるのが中井貴恵だ。彼女に求婚する(関わる)男たちが次々と殺されていき、金田一耕助が事件を解明していくわけだが、今回のテーマは中井貴恵を軸として展開され入り乱れる歪んだ愛情。仲代達矢演じる父親は実の父親ではなく実父は彼女が生まれる前に何者かによって殺されている。娘を溺愛する義父と、彼女の側に付き添っていた岸恵子演じる家庭教師…様々な愛が交差する題材なだけに従来の陰湿なイメージから一転して華麗な場面が全編に散りばめられている。今回の季節を秋に設定したのは、紅葉の目に鮮やかな色彩が絢爛たる社交界のイメージにピッタリだったからだろう。
 この頃(公開当時1977年)になると映画製作のあり方も変わりはじめ本作は、化粧品メーカーとタイアップ(現在では当たり前になっているが…)してリップスティックが事件の鍵を握る重要なアイテムとなっていた。コマーシャルもかなり派手に流していたのをよく覚えている。まぁ、本シリーズが元々、角川書店という異業種参入から始まったわけだから金田一シリーズは、かなり時代の先駆者であった事は実証されたようなものだ。本作は、中井貴恵演じるヒロインが父親の死の真相を知ろうとする中で殺人事件が起こるわけで過去のシリーズを振り返っても本作のヒロインは横溝正史文学の中でもかなり行動的な女性であった。中盤から我々観客はうっすらと犯人が養父・仲代達矢であると気づき始める。ミステリー映画で、早々に犯人が分かるなんて…と、思っていたら、それによって次なるサスペンスが発生する。今まで血がつながらないながらも父親と慕っていた男が実父を殺し、現在も彼女の周りに群がる男たちを殺しているわけだ。彼女が真相に近づけば近づく程、その事実に対峙しなくてはならないのだ。あっ、な〜るほど…この犯人を早々に分からせたのは市川監督の確信犯だったのだ。
 金田一が事件の真相を関係者全員を現場に集めて、説明する下りは同時全盛だったアガサ・クリスティー映画の影響によるものだろうか?「犯人はあなたです」と娘を含めた大勢の前で言ってしまうのは、ちょっと今までの金田一らしさ(彼は常に誰もいない場所…または、最小限の人数しかいないタイミングで犯人にコッソリと言うのだ。それが犯人に対する同情的なところがあるといわれる由来なのだが)が抜けているように感じられたのが残念。まぁ、歴代の犯人を勤めた女優を一同に介して大芝居を披露するのは、ここしかないから仕方ないのだが…。前半までは、真犯人があたかも二世代の母娘を見てきた家庭教師が同性愛者で、彼女の叶わぬ気持ちが屈折し、その果てに犯行を起こしたかに思わせていた。それが、どうやら父親のようだ…という中盤からクライマックス。今までなら、ここで終わっているところなのだが、もう一つ真実が隠されていた事に脚本の上手さと市川監督の構成の妙に感心させられた。全ての罪を一身に背負い仲代達矢と共に命を絶った岸恵子が数十年間胸に秘めていた想いを毛糸玉の中に隠した金田一だけに託すもう一つの真相に思わず呟く…やられた!

「僕は動機を考えているんです」必死になって犯人とおぼしき岸恵子演じる家庭教師をかばう智子に対して冷静に語る金田一のセリフ。探偵にとって興味はこの一点に限るのだ。


レーベル: 東宝(株)
販売元: 東宝(株)
メーカー品番: TDV-2749D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,536円 (税込)

昭和22年(1947)
三本指の男

昭和24年(1949)
獄門島

昭和26年(1951)
八つ墓村

昭和27年(1952)
女王蜂

昭和29年(1954)
悪魔が来たりて笛を吹く
犬神家の謎悪魔は踊る
幽霊男

昭和31年(1956)
三っ首塔

昭和36年(1961)
悪魔の手毬唄

昭和50年(1975)
本陣殺人事件

昭和51年(1976)
犬神家の一族

昭和52年(1977)
悪魔の手毬唄
獄門島
八つ墓村

昭和53年(1978)
女王蜂

昭和54年(1979)
悪魔が来たりて笛を吹く
金田一耕助の冒険
病院坂の首縊りの家

昭和56年(1981)
悪霊島

平成8年(1996)
八つ墓村

平成18年(2006)
犬神家の一族




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