温泉みみず芸者
勝ち残るのはどっち!?名器と名器の栄誉を賭けて秘術をつくして渡り合うクライマックス三番勝負の興奮。

1971年 カラー シネマスコープ 85min 東映東京
監督、脚本 鈴木則文 原作 尾崎士郎 脚本 掛札昌裕 企画 岡田茂、天尾完次 撮影 古谷伸 
音楽 鏑木創 美術 雨森義充 編集 神田忠男 録音 堀場一朗 照明 金子凱美 原案 久保田正
出演 池玲子、松井康子、杉本美樹、葵三津子、女屋実和子、木原和歌子、早坂くるみ、大芝かおり
黒葉ナナ、キャサリン・サリバン、松本紀和子、小池朝雄、山城新伍、島田秀雄、由利徹、岡八郎
芦屋雁之助、三原葉子、大泉滉、団鬼六、名和宏、岡部正純、大下哲也、殿山泰司


 西伊豆を舞台にくりひろげられる温泉芸者の艶笑喜劇。監督は本作で本格的ポルノ映画を手掛ける事となる『すいばれ一家 男になりたい』の鈴木則文。東映京都の撮影所長を務めていた岡田茂の命を受け製作したポルノ映画『忍びの卍』が質的にポルノと呼べる代物ではなかったため、『温泉こんにゃく芸者』の掛札昌裕と共同で脚本を執筆。『温泉あんま芸者』『温泉こんにゃく芸者』に続く第三弾としてヒットする。以後、鈴木監督特有のナンセンスな笑いとバカに徹したストーリー展開は、本作から開花したと言って良いだろう。撮影は『女渡世人』の古谷伸が担当。また、鈴木監督とプロデューサーの天尾完次が、ロケ地を探している最中に雑誌でモデルをしていた池玲子と杉本美樹を発掘。彼女たちのデビュー作となり以降の東映ピンク路線には無くてはならない女優となるのである。静岡県西伊豆にある土肥温泉からの協力を得て、地元の活性化も図った当時としては珍しい町興し的な作品となった。また、本作で初めて“ポルノ映画”という表現が使われ、池玲子は「日本のポルノ女優第一号」という触れ込みで売り出された。ちなみに、当初タイトルが“温泉タコ壺芸者”だったのを“みみず”に変えさせたのは言うまでもなく岡田茂である。


 伊勢志摩の港町で一杯飲み屋を営む多湖初栄(松井康子)と二人の娘、圭子(池玲子)、幸子(杉本美樹)の母娘は美人として評判がよかった。ところが初栄は生来の淫乱性。抵当に入っている先祖の墓を買い戻すために、百万円を目標に貯めている金まで若いつばめに持ち逃げされる始末。そこで、圭子は仕方なしに、東京のトルコに働きに出るが、偶然、社長久兵エと知り合い五十万円もらう。数日後、初栄が伊豆の土肥温泉から“すぐこい”と打電してくる。駈けつけた圭子に、初栄は借金を肩代りしてくれと泣きつく。初栄は、圭子が送った五十万円を手にすると性凝りもなく若い男を作り、士肥温泉に遊びにきたが、その金を持ち逃げされてしまったのだ。窮した圭子は、借金返済のために温泉芸者として働くことになり、初栄も女中に雇われることになった。ようやくここでの生活になれた頃、この静かな温泉町の静寂を破って、時ならぬ混乱がまき起こった。無限精流の性豪を名乗る竿師段平(名和宏)、師範代黒竿の段吉、門弟健が、芸者の引き抜きにやってきたのだった。彼らはベットを共にした芸者を意のままに、他の土地に鞍変えさせてしまう温泉場荒しである。政界筋をバックに持つ彼らを追い出す訳にもいかず、町の役人衆も頭を痛めていたが、結局、初栄と圭子、妹の幸子の母娘が、彼らの相手をし、倒さなければならなくなる。勝てば三百万円の褒賞金がもらえるとあって、初栄のいきり様は大変なもの。海岸大明神の夜祭りに湧き立つ浜辺の邸宅で、そのセックス試合は開始された。


 東映ポルノ映画第一号女優となった池玲子の記念すべきデビュー作。今ではカルトムービーとして絶大な人気を誇る本作も当時は、売れ筋である任侠映画の併映作品(いわゆるB面作品)であった。…にも関わらず、池の日本人離れしたボディと共演の杉本美樹のスレンダーなプロポーションに蓋を開ければ、大ヒット。健さんの渋い鯔背な唐獅子牡丹に興奮した男共は、続いて始まる池の甘い喘ぎ声に、また興奮したわけだ。所詮キワモノと誰もが馬鹿にしていた女のカラダを売り物にした本作がヒットするまで、鈴木則文監督と天尾完次プロデューサーの苦労は並大抵の神経では保たなかったであろう。何せ、内容は余りにもバカバカしく、初主演の2人の女優はセリフも棒読みの素人に毛が生えた程度。素人娘を主役に据えた映画なんか誰も監督してくれるはずもなく我らが鈴木監督が岡田茂所長に頼まれて手掛ける事になる。ところが、この素人芝居が実に面白いのだ。
 男運と男癖が悪い母親に貯金を全て使われてしまった娘が伊豆・土肥温泉で芸者となり借金返済に体を張って客を取る。彼女の家は伊勢志摩で蛸壺漁を始めた由緒正しき(?)家柄で何故か彼女と杉本美樹演じる妹は、その御利益のおかげ(どういう御利益なんだか…)蛸壺の如き名器の持ち主という恐るべき設定。なのに、タイトルは全く内容と関係ない“みみず芸者”…間違いなく今の時代なら、そんなタイトルを付けるなんてあり得ないだろう。『緋牡丹博徒』の生みの親・鈴木監督が開き直ったのか、それとも元々この手のスラップスティックが好きだったのか?とにかくぶっ飛びまくっているのが実に楽しい。鈴木監督は池に「日本のソフィア・ローレンの線を狙ったつもりで演れ」と命じていたらしいが、おかげで明るさを全面に出す事に成功した。名コンビである脚本・掛札昌裕との息もピッタリでアナーキーな笑いを提供する。また、掛札の作り上げた由利徹演じる中国大使館の通訳は最高に下らなく筆者の中で彼のベストワンに選んでいる程、珍キャラクターのオンパレード。それだけではない、男優陣は東映任侠映画の名バイプレイヤー名和宏が、池玲子と空前絶後のセックスバトルを繰り広げる等、B級色満載!独立プロではなく天下の東映が、堂々とB級映画を作る事に価値があるのだ。大体、名和宏の役が“無限精流の性豪…その名も竿師段平”というのだから、どこまでやりたい放題なのか?思えば、日本映画も斜陽の昭和40年代。最後の悪あがきとも取れなくはないが、「どうせなら俗悪と呼ばれても客が入る映画を作ろうじゃないか!」という地の底から溢れ出すパワーを感じる。まだ戦後の後遺症が残っている混沌とした時代だからこそ生まれるパワーとでも言おうか。特攻隊くずれで、戦争のせいで不能になっている小池朝雄演じる板前が、正にその代表例。男としての機能を果たせないで池の肢体を眺める姿に悲しさを感じさせる。『ジャンゴ』を作った三池崇監督に、是非ともクエンティン・タランティーノよろしく“和製グラインドハウス”版としてリメイクを期待する。

まだ演技もロクに出来ない素人娘を一生懸命支えている東映の俳優たちに映画人としての基本を垣間見た。それだけでも本作は素晴らしい映画なのである。


レーベル:東映ビデオ(株)
販売元: 東映ビデオ(株)
メーカー品番: DSTD-2788 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,253円 (税込)

昭和46年(1971)
温泉みみず芸者
女番長ブルース
 牝蜂の逆襲
現代ポルノ伝
 先天性淫婦

昭和47年(1972)
エロ将軍と
 二十一人の愛妾
恐怖女子高校
 女暴力教室
女番長ゲリラ
女番長ブルース
 牝蜂の挑戦
緋ぢりめん博徒
不良番長
 のら犬機動隊
狼やくざ
 葬いは俺が出す

昭和48年(1973)
やさぐれ姐御伝
 総括リンチ
恐怖女子高校
 アニマル同級生
恐怖女子高校
 不良悶絶グループ
恐怖女子高校
 暴行リンチ教室
女番長
仁義なき戦い代理戦争
前科おんな 殺し節
不良姐御伝
 猪の鹿お蝶

昭和49年(1974)
逆襲!殺人拳
黒い牝豹M
女囚やくざ
女番長 タイマン勝負
新仁義なき戦い
忘八武士道 さ無頼

昭和50年(1975)
喜劇 特出しヒモ天国
県警対組織暴力
仁義の墓場
暴力金脈

昭和54年(1979)
黄金の犬
総長の首




Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou