池玲子と同時に『温泉みみず芸者』で妹役としてデビューした杉本美樹は、池と共に日本初のポルノ女優として東映ピンク映画を支えていた。スレンダーボディとキリッとした顔立ちから陰のある策略家的な役が多かった。(ある意味、主役よりもカッコいいんだけどね)当初、ボリューム感溢れるボディの池の方がどうしても目立ってしまい、杉本はどちらかというとサブ的なサポート役に廻らざるを得なかったのだろう。事実、デビュー3作目の『現代ポルノ伝先天性淫婦』ではオープニングだけに登場するレズの先輩と、さほど重要な役を与えられていなかった。2作目の『女番長牝蜂の逆襲』では、同じグループの一人、準主役はむしろ賀川雪絵の方であった。キャラ的に弱い…というのが批評家の論評として挙げられる程だったのだ。おまけに、演技が正直言って上手くない…セリフがことごとく棒読みで観ていると辛くなるほど。
しかし、突然の池による「歌手転向宣言」によって(それはアッサリ池の儚い夢として終焉を迎えたが…)当初、池の為に準備されていた鈴木則文監督『徳川セックス禁止令 色情大名』で見事主役の座を射止めた。30歳を過ぎても童貞の大名の元に嫁としてやってくる娘役で、ゴールデンウイークに公開された本作はポルノ映画としては異例の大ヒット。杉本は、世間知らずのお姫様をキュートに演じていた。これを期に彼女が女優として一気に開花したのは言うまでもなく、続けて『温泉スッポン芸者』…と出演作は加速度を増す。その翌月には、それまで池の看板作品だった女番長シリーズ『女番長ゲリラ』でも堂々とした演技で主役をこなし、本作はシリーズ最高傑作と呼び名も高い評価を得る事となった。また、この作品は、詫びを入れて戻ってきた池玲子の復帰作でもあり、二人の火花散る演技合戦が幸をそうしたのである。また、本作から主題歌を杉本が担当。“女番長流れ者”は、彼女持ち前のハスキーボイスがピッタリ合うムード満点の出来映えだった。前述の通り、杉本は、どんなシーンでも、極力自分で演じるよう心がけていたが、前作の『温泉スッポン芸者』と、この作品では、自らバイクを操りスリリングなアクションシーンに挑んでいる。彼女は、自分の演技の未熟さを過激なシーンでもスタントを使わずにこなす事で、コツコツと前向きに仕事に取り組む姿勢が鈴木監督を始め、現場のスタッフに愛されたのだ。事実、鈴木監督も当時の雑誌のインタビューで「これからは彼女を日本のカトリーヌ・ドヌーブにするため全力を尽くしますよ」と述べていた程。しばらくは、彼女と池が女番長シリーズの主役を交互に務め、良い意味で映画を地で行くライバル心がぶつかり合う力強い作品がいくつも誕生した。ちなみに、シリーズ第4作の『女番長スケバン』で彼女を救ってくれた宮内洋演じるチンピラに言う「借りは体で返すよ。抱きな!」はシリーズ屈指の名セリフだった。そして、後期の杉本美樹の大傑作『0課の女 赤い手錠』を発表。無口でクールな女刑事(無口な設定のおかげで彼女の棒読みセリフが活かされたという説もあるが)を演じた本作。ハイテンポのクライム・ポルノ・アクション映画は、今でもファンの間で語り継がれている作品なのだ。
ポルノ映画も次第に下火となってきた頃、杉本は突然「引退」を表明する。それ以前にも池玲子同様、裸になる事に抵抗を感じ始めていた彼女は、やはり東映から干されてしまう時期があった。その時の理由や心境は定かではないが、彼女は自分にとって何が一番の幸せか?ちゃんと理解していたのではないだろうか。突然の引退も芸能界に対する限界を自分なりに感じていた結果かも知れない。だからこそ、「もう一度、映画に戻らないか」という萬屋錦之介御大の誘いに一度は復帰するも、同級生と結婚を期に一般家庭に入ってしまった。彼女にとってポルノ女優は全身全霊傾けて挑んだ仕事であり、それが燃え尽き昇華された時点で、彼女の中で何かが終わったのではないだろうか。彼女の出した結論の潔さを見ていると、女優・杉本美樹が最も得意とした役柄にオーバーラップしてしまうのは私だけではないだろう。

杉本 美樹(すぎもと みき)MIKI SUGIMOTO 本名:安部信子 旧姓・西海
1953年1月28日。神奈川県茅ケ崎市生まれ。
モデル業をしているところを東映にスカウトされ、1971年、『温泉みみず芸者』で池玲子と共に映画デビューを果たす。主演である池の妹役で、宣伝ポスターにも大きく写る鳴り物入りのデビューであった。しかし、映画出演2作目となる『女番長ブルース 牝蜂の逆襲』からは、東映ポルノのスター女優の座を駆け上がっていった池との差は開いていき、助演として存在感は小さくなっていく。
だが1972年、池が突然の歌手転向宣言を行い東映との関係が悪化したことで、池が主役を務める予定だった『徳川セックス禁止令色情大名』の代役主演に急遽抜擢されたことが転機となる。続いて『温泉スッポン芸者』、『女番長ゲリラ』でも主演を務め、東映ポルノの看板女優としての地位を確立。池が短期間で映画復帰した後も杉本がその座から落ちることはなく、2大看板女優として池と共に東映ポルノの屋台骨を担っていくこととなる。
1973年にはエランドール賞の新人賞を受賞した。1974年には現在でも国内外でカルト的な人気を誇るB級バイオレンス・アクションの傑作、『0課の女赤い手錠(ワッパ)』で主役のクールな女刑事を好演。棒読みに聞こえるとして指摘されることもあった抑揚のない台詞の発声もハードボイルドな主人公のキャラクターに嵌っており、彼女の主演映画では最高傑作という声も高い。1978年に結婚後、芸能界を引退した。(Wikipediaより一部抜粋)
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