西原理恵子は最高に味のあるキャラを描く下手クソ漫画家(断っておくが褒め言葉です)である。その辺は本人も自覚しているようだが(しりあがり寿とどちらがヘタか競い合っているとか…)とにかく構図もメチャクチャで字も汚いから読むのに苦労する。ところが、それらがキャラたちにピッタリはまっているのだから面白い。超がつくようなビンボー家庭に育った漫画の登場人物の吹き出しを具現化するとしたら、こんな感じでグチャグチャになるような気がする。だから、間違っても映画化された作品しか観ていない人が想像するような傷つきやすい少女が主人公だったり、一般的なガールズトークが繰り広げられるようなスタティックな作品ではない。まぁ、彼女の漫画が女性誌ではなく男性誌に連載されているところからも想像出来るだろうが、かなりエキセントリックな内容だ。作風としては、型破りな人生を描いた“無頼派”、自分の生い立ちや子供を主人公とした“叙情派”のザックリと二種類に分けられる。立て続けに映画化されている5作品全てが“叙情派”に位置付けられる作品ばかり…というのは、映画館の来場者比率を考えた場合、女性の共感を得られる“叙情派”の方が集客を見込めるとプロデューサーが判断したからであろうが、これは正しい。サイバラ漫画の面白さは女性が主人公であろうが子供が主人公であろうが美辞麗句並べる事なく、ありのままの本音をぶつけてくるところにあって、それが多くの女性映画ファン(漫画を読まない層に至るまで)に共感を得たのだろう。ただし、登場する男はどいつもこいつもダメ男ばかりなのだが、原作よりも映画の方が、やや愛すべきキャラになっている。映画は女性層を意識しているためか原作よりも相対的に見て、ソフトになっているのは物足りなさを感じるファンがいたのも事実だ。中でも深津絵里を主演に迎えた『女の子ものがたり』は女の子の友情を描いた原作の毒気を軽減させた完全なガールズムービーと化していた。確かに作り手側の女性プロデューサーは、本作で“女の子版『スタンド・バイ・ミー』”を目指し、大胆な脚色をされている。原作はかなりシニカルな内容で“どん底でもしぶとく生きる女の子たち”を結構えげつなく描いており、そのまま映画化するのは難しかったのだろう。でも、原作をただ単純になぞっても芸は無いわけで、こうした大胆さも原作の映画化には必要だと思う。とは言いつつも原作に出てくるきいちゃんはブスという設定(映画で演じた波瑠はキレイ過ぎ?)だから面白く、ヤンキーの彼氏にヒドい仕打ちを受けても離れない姿に哀愁があったのも確かだ。まぁ、この違いを楽しむのも映画の醍醐味…と言えるだろう。
取り立てて何も無い地方都市に住んでいる男が全てサイバラ漫画に登場するようなダメ男とは言わないまでも似たような雰囲気の男はよく見かける。都会のような緊張感が無いからだろうか?長年住んでいると町も自宅も同じ感覚に陥ってしまうのかも知れない。だから公衆の面前で男が女を平気で罵っていたりする。隣町の境界線までが自分の家みたいなモノだから自由奔放に女を泣かす。こうした男性像は西原の過去に起因するところが多いのではないかと思う。3歳の時にアルコール依存症だった実父と死別、6歳の時に母親が再婚した義理の父は家庭内暴力とギャンブルによる多額の借金を残して首吊り自殺…。(しかも西原の美大受験前日に!)だから、サイバラ漫画に登場する男たちは、しょうもなくダメな奴が多いのも無理はない。高知県の何があるわけでもない平均的な田舎町(田園地域と違い工業に誘致しているため変にスレてしまった)住人は牧歌的とは程遠く俗物的なのも理解出来る。こういう高度経済成長の落とし子みたいな町は日本全国至る所にあり、男たちは行き場のないエネルギーを車、酒、女、薬に向けて爆発させる。都会の女と違いケバケバしくても男に従順なのところだけは田舎の女の子特有の性質を持っているものだから自然と男は増長する負の連鎖が繰り返されるわけだ。西原は登場人物が体験するエピソードにこうした実話を自虐的なネタとして放り込んでいる。例えば『いけちゃんとぼく』で主人公・ヨシオ少年の父親が愛人宅から帰る途中、酔いつぶれて用水路で死んでしまうエピソードがある。これは実際に彼女の父親がそういった亡くなり方をされていたそうで、それに関しては『毎日かあちゃん』でも語られている。また『パーマネント野ばら』で親友・ともちゃんの亭主がギャンブルにハマり野垂れ死にしてしまうエピソードがあるが、それはギャンブルにハマった二番目の父親がベースとなっているようだ。その中でも究極のダメ男オンパレード作品は何と言っても『ぼくんち』である。映画では真木蔵人が演じていたコウイチも、岸部一徳扮する末吉、今田耕司扮する安藤…等々、何かしら理屈をこねて生きている。どうやら男は、開き直って全てをさらけ出して生きることは不可能な生物らしい。でも、彼女の父親や友人たちが苦労させられた男共を見て来たにも関わらず最後には夫の故・鴨志田穣もまたアルコール依存症という事実。これは菩薩の如き愛情であるが由縁か…はたまた、そうした道へと誘ってしまう西原の優しさなるものなのか?いずれにしても単なる男運の悪さと安易に決めつける事が出来ない“何か”を感じるのだが、その“何か”が分からない。男に金をせびられ、浮気され、殴られても耐えてしまう女たちがサイバラ漫画に登場する女性たちの悲しい現実なのだが、『パーマネント野ばら』のラストで小池栄子演じるみっちゃんが言うセリフ「あたしらズーッと世間様の注文してきた女やってきたんよ。これからは好きにさせてもらおう」に、西原漫画に登場する全ての女性たちの思いが込められているように思える。
『いけちゃんとぼく』、『女の子ものがたり』、『パーマネント野ばら』など、自身の作品の映画化が相次いでいる理由を問われ、「不況に強かったかな、と。景気が良かったら、もっとお金のかかる大作を映画化するんだろうけど。私の作品は、現実はキッチリ描くけど、最後はちょっとだけ笑っていただけるところがある。それが不況に強い理由かな。みなさん、精神的にキツい局面なので、夢みたいなセレブ生活なんて見たくないのかもしれませんね」と自らの作品について語っていたのが印象に残る。
神奈川県川崎市出身。北海道札幌市で育つ。北海道教育大学附属札幌小学校、北海道教育大学附属札幌中学校を経て東海大学付属第四高等学校を卒業し、予備校に2年通った後に大学進学を諦め、上京。新宿の焼鳥屋で働きながら戦場カメラマンへの憧れを募らせる。アルバイトで貯めた金でカメラを買い、23歳で単身タイに渡り、アジア各国を放浪。ジャーナリストの橋田信介に出会い弟子入り。戦場カメラマンとして世界中の紛争地帯での取材活動を行う。クメール・ルージュの捕虜となり新聞に載り、この事件で初めてフリーライターとして世間に名前が出る。その後も世界の紛争地帯を取材し続け、目の前で人が死んで行く様、自分にも向けられる銃口、必死に銃を持つ子供たちなど、数えきれない現実の場面を目の当たりにし、極限のストレスから重度のアルコール依存症となる。アルコール断ちのため仏門に入り僧侶となる(ミャンマーのビザが取得しやすくなるとの理由もあった)。出家名はタイ語で"聡明なる者"を意味する「ピーニャソーダ」。1996年、勝谷誠彦の紹介により、タイを取材中の漫画家、西原理恵子と出会う。同年9月、西原と勝谷のアマゾン川取材企画にCSテレビのビデオカメラマンとして同行。過酷なジャングルロケを敢行する。取材後、帰りの飛行機の中で西原にプロポーズ。9年ぶりに日本に帰国し、西原と結婚。一男一女をもうける。西原の著書には「鴨ちゃん」(タイでの初登場時のみ「鴨くん」)、「鴨」として登場。西原が毎日新聞にて連載している『毎日かあさん』では「アブナイお父さん」として描かれた。自身のアジア滞在経験をもとにした西原との共著『アジアパー伝』シリーズで作家としても本格デビュー。その後も西原と共に各国を巡る。アルコール依存症による暴言・器物破損等で精神病棟への入退院を繰り返し、2003年に離婚。しかし離婚後も西原のサポートにより、2006年遂にアルコール依存症からの回復の道を歩み始める。同年、著書『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』の中で、癌であることを告白。西原と復縁(入籍せず、事実婚の形)し、闘病生活を共に過ごす。2007年3月20日午前5時、腎臓癌(正確には平滑筋肉腫)のため42歳で死去。「僕はささやきながら彼女の手を強く握りしめた。それから二人はずっと手を離すことはなかった(絶筆)」という言葉を『遺言集』の中に収めている。喪主は西原が務め、4月28日には一般にも向けた「お別れの会」が行われ、1250人の参列があった。(Wikipediaより一部抜粋)
西原 理恵子(さいばら りえこ)RIEKO SAIBARA 1964年11月1日〜 高知県高知市出身
母の実家である漁師の家で長女として生まれる。兄弟は兄がひとり。3歳の時にアルコール依存症の実父と死に別れる。6才の時、母は再婚し義父に溺愛されて育つ。義理の父は無類のギャンブル好きで奔放な生活を送っていた。義父は家庭内暴力を振い、ギャンブルで莫大な借金を作った挙句、西原が美大を受験する前日に首吊り自殺した。私立土佐女子高等学校在学中に飲酒によって退学処分を受け、その処分を巡り学校側を訴える(本人曰く「おこづかいを前借りして訴訟に踏み切った(自分は)いけいけどんどん派」)。19歳で父の保険金100万円を持って単身上京。1年間立川美術学院に通った後、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に入学し1989年3月同校卒業。大学在学中から飲食店での皿洗いやミニスカパブでホステスのアルバイトをしながら成人雑誌のカットを描いていた。
1988年カットを目にした小学館の編集者八巻和弘にスカウトされ『ちくろ幼稚園』でデビュー。以後はパチンコ雑誌、麻雀漫画誌、漫画週刊誌などに連載を持ち、『週刊朝日』連載のグルメレポ漫画『恨ミシュラン』で一躍人気を博す。ギャンブルマンガを描くには、ギャンブルを知らないといけないということで、ギャンブルに手を出してギャンブル依存症となり、デビューから10年で約5000万円を失う。1996年に旅行体験レポ漫画『鳥頭紀行』で知り合ったフォトジャーナリスト鴨志田穣と結婚。2児をもうけるも、鴨志田のアルコール依存症や西原の多忙によるすれ違いなどが原因で2003年に離婚する。1997年に『ぼくんち』で文藝春秋漫画賞を受賞する。同作品は2003年に観月ありさ主演で映画化され、自身も「ピンサロの女」役で出演している。2005年に『毎日かあさん(カニ母編)』で文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞を、『毎日かあさん』『上京ものがたり』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2001年に渋谷PARCOにて初の展示会『西原理恵子 大ブレークへの道』を開催。2009年には同場所にて第二回展示会『バラハク』を開催。2007年3月の鴨志田の逝去から3ヶ月間活動を休止していたが、親友であるゲッツ板谷原作の映画『ワルボロ』の宣伝用イラスト制作を機に、『毎日かあさん』などの連載を再開する。2009年4月より『毎日かあさん』がテレビアニメ化、2010年には『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を原作として『崖っぷちのエリー?この世でいちばん大事な「カネ」の話』が山田優主演でテレビドラマ化された。 2011年、『毎日かあさん』で第40回日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。(Wikipediaより一部抜粋)
(西原理恵子 公式サイト http://www.toriatama.net/index.htm)