女の子ものがたり
女の子の数だけ、シアワセの道がある。
2009年 カラー ビスタサイズ 110min IMJエンタテインメント=エイベックス・エンタテインメント
プロデューサー 西口典子、菅野和佳奈 監督、脚本 森岡利行 原作 西原理恵子 撮影 清久素延
美術 山下修侍 音楽 おおはた雄一 照明 横道将昭 録音 矢野正人 編集 菊井貴繁
出演 深津絵里、大後寿々花、福士誠治、波瑠、高山侑子、森迫永依、三吉彩花、佐藤初、大東俊介
佐野和真、賀来賢人、落合恭子、黒沢あすか、上島竜兵、西原理恵子、板尾創路、奥貫薫、風吹ジュン
(C)2009西原理恵子・小学館/『女の子ものがたり』製作委員会
大人になるまでの、しんどくて情けなくて、けれどあふれるくらい大切な<あの頃>。そんな輝く日々が思い出させてくれたのは、夢に向かって歩き始めた頃の自分自身…。『女の子ものがたり』は、かつて“女の子”だった全ての女性が元気になれる涙と感動の物語である。原作は、 「ぼくんち」、「毎日かあさん」など独特の画風で人気を博している漫画家、西原理恵子によるものでハードカバー漫画としては異例の15万部という大ヒットを記録しているベストセラーだ。西原の分身とも言える主人公・菜都美を演じるのは、『博士の愛した数式』以来の主演作となる深津絵里。人生の絶不調から生きる勇気を取り戻していく様を、透明感あふれる独特の存在感で演じており、同世代の女性たちが共感するヒロインが誕生した。そして、その高校生時代を演じるのが、映画『北の零年』、『SAYURI』」などの大後寿々花。さらに、小学生時代を演じるのが、実写版「ちびまる子ちゃん」でおなじみ、国民的子役の森迫永依。ほかに、セブンティーン専属モデルで『守護天使』のる波瑠、『空へ〜救いの翼〜』で主演デビューを果たした高山侑子など、若手女優たちが出演していることも話題。また、福士誠治や風吹ジュン、板尾創路、奥貫薫ら多彩な役者たちが出演している。脚本・監督は『子猫の涙』 で2007年東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門特別賞を受賞した森岡利行がメガホンを取り、愛媛県の海と山のある懐かしくて美しい風景が子供時代のシーンとして味わいを添えている。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
高原菜都美(深津絵里)、漫画家、36才。昼間のビール、たらいで水浴、ソファで昼寝…スランプから抜け出すきざしがまったくないダメ作家。新米編集者、財前(福士誠治)もあきれ果て、ついにキツイ一言を投げかけてしまう。「先生、ともだちいないでしょう?」しかし、そんな菜都美にも、かつて?g女の子?hだった頃、いつも一緒にいてくれたともだちがいた。海と山のみえる小さな町で出会ったみさちゃんときいちゃん。少女から大人に成長していく未完成でいとおしいあの頃、情けないことも楽しくて輝いていたことも、自分の全てを受け入れてくれた大切なともだち。今はもう会えないとしても、あのともだちと過ごした日々が、今も自分を励ましてくれていることに菜都美は気づいていく。あの頃から今につながっている1本の道。ひとりっきりで歩いてきたんじゃないことを知ったとき、菜都美の心にある変化がおき始める。
西原理恵子の漫画に出てくる女性たちは男運が悪く、亭主たちは暴力をふるったり浮気をしたりとロクなもんじゃない奴が多い。なのにサイバラ漫画は読むと元気がもらえる不思議な力がある。それは、どの作品においても登場人物たちに嘘がなく堂々と生きているからだろう。本作に出てくる田舎町(西原の地元である四国)で生まれ育った三人の女の子は、高校卒業後しばらくしてから全く別の人生を歩み始める。主人公のなつみは東京に出て漫画家(多分、西原自身)となり、みさちゃんは借金まみれで亭主と共に姿を消し、きいちゃんは幼い娘を残して病でこの世を去ってしまう。本作で描かれているのは三人の女の子たちの友情である事は間違いないのだが、根底にあるテーマは“幸せ”の定義だ。主人公の二人の友人たちは結婚するも決して“幸せ”とは言い難い生活を送っている。みさちゃんは稼ぎが悪いからと殴られ頭蓋骨にヒビが入っているし、きいちゃんもしょっちゅう顔に青あざを作っている。それでも信じられない事に、二人はまるで自慢話でもしているかのようにヘラヘラ笑っているのだ。このシーンで“幸せ”の定義って一体何なのかが取り上げられる。なつみは傷だらけになっても尚、男に尽くそうとしている友人たちを前に「みさちゃんは幸せ…きいちゃんは幸せ…」と何度も呟くシーンが印象に残る。なつみは幼い頃に「私たちを見下しているんでしょう」と二人から言われているのだが、実はその時から何も変わっていない。なつみは確かに二人を憐れんでおり、彼女らにしてみたらそれは大きなお世話なのだ。自分なりの“幸せ”を否定されたきいちゃんが、なつみに食ってかかり、しまいには掴み合いの喧嘩となってしまうのは、痛い程よく分かる。泥だらけになったきいちゃんが「あんたはうちらと違うと思ってるやろ。町から出ていけ」と最後に言う優しさに思わず涙が溢れてしまう。(このシーンが後半に活きてくるのだ)
女の子版『スタンド・バイ・ミー』を作ろうと脚本も手掛けた森岡利行監督の思いはドンズバのキャスティングによって見事に実現している。まず、ストーリーテラーとなって現代のなつみを演じた深津絵里がイイ!スランプに陥って新作が書けず過去を回想していくうちに大事な親友がいた事に気付く…新人の編集者に諭されてタオルごしに浮かべる泣き笑いの表情は彼女にしか出来ないと思う。彼女が思い出す少女時代の思い出は、貧乏だったり、父親が行方不明になっていたり…周囲からは臭いだの家が汚いだのとバカにされながらも、逞しくしたたかに生きている友の姿だ。中でも印象に残るのは、高校時代、三人がきいちゃんの彼氏に山中に置いてきぼりにされるエピソードだ。川沿いをトボトボと歩くうちに夜になって「いつかバラバラになるんやろうね…」と焚き火にあたりながら、しみじみと言うきいちゃんを演じた波瑠の表情が最高だった。本作が単なる友情物語と一線を画すのは、誰も救いの手を差し伸べる事が出来ない現実を描いているところにある。いくらロクでもない男に親友が不幸な目にあっていたとしても“幸せ”の定義(=価値観)が違う限り、自分は無力なのだ。そして、もうひとつ…結婚したきいちゃんの家に遊びに来たみさちゃんが部屋を眺めながら「チグハグな家や…きいちゃん…人がちゃんと育つ家見た事ないからな」と言うセリフがある。このセリフが本作の核心を突いており、サイバラ漫画の根底にある力強さとは、こうした現実を全て凌駕しているところにあるのだと思う。厳しい現実に、唯一救いがあるとすれば、ラストで死んだきいちゃんが残した一人娘と初めて会うシーンだ。二人が決定的に決別する事となった壁画の前で、娘の口から、きいちゃんが、なつみを自慢していた事を聞かされたところで感動は頂点に達する。見事だ。
「何も見ないで何も聞かないで何も知ろうとしない事は…とっても恥ずかしい事でしょ?」父が死んだ時になつみが二人の親友に言うセリフだ。