毎日かあさん
そろそろ本音でいきましょう。
2011年 カラー ビスタサイズ 114min 松竹配給
エグゼクティブプロデューサー 中尾哲郎、那須野哲弥 監督 小林聖太郎 脚本 真辺克彦
原作 西原理恵子 撮影 斉藤幸一 美術 丸尾知行 音楽 周防義和 照明 豊見山明長
録音 白取貢 編集 宮島竜治 企画 青木竹彦、原公男 プロデューサー 瀧川治水、渡辺大介
出演 小泉今日子、永瀬正敏、矢部光祐、小西舞優、正司照枝、古田新太、大森南朋、田畑智子
光石研、鈴木砂羽、柴田理恵、北斗晶、安藤玉恵、遠山景織子
2011年2月5日(土)より 全国大ヒット上映中
(C)2011映画『女の子ものがたり』製作委員会
うわべだけのキレイごとを嫌い、現代女性の本音の生き様を描き続ける漫画家・西原理恵子。 鋭い毒とその陰に忍ばせた優しい愛が女性たちの心を捉え大ブレイクした。本作は彼女の代表作であり、自身の人生を基にした自叙伝を2002年10月より、毎日新聞生活家庭面にて連載を開始している。シリーズを重ねるごとに子供を持つ母親たちからは勿論、幅広い年齢層の女性たちから圧倒的な支持を受け、コミックは累計170万部を突破。2007年のBOOK OF THE YEARにて「泣けた本」第1位に選ばれている。監督はデビュー作『かぞくのひけつ』で日本映画監督協会新人賞を獲得した小林聖太郎。原作では描き切れなかった家族の絆を丹念に描きあげている。また、エンディングテーマを憂歌団のボーカル木村充揮が担当し、哀愁漂う歌声を披露、感動的なフィナーレを飾る。主人公サイバラを演じるのは『トウキョウソナタ』『グーグーだって猫である』などで数多くの映画賞を受賞している小泉今日子。夫のカモシダには小泉のたっての願いから夢の共演を果たした『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の永瀬正敏が扮している。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
今日もサイバラ家に、嵐のような朝がやってきた。サイバラリエコ(小泉今日子)を大声で起こす母トシエ(正司照枝)、まだオネショのクセが治らない息子のブンジ(矢部光祐)、そして4歳の娘フミ(小西舞優)。子供たちを保育園を送り届けて、ようやく忙しい朝は一段落するが、締め切りに追われる人気漫画家のサイバラは休む暇もなく仕事開始する。だが仕事が終わると、次は子供たちを寝かせる時間となり、目まぐるしい一日も終わりを迎える。一方、元戦場カメラマンの夫カモシダ(永瀬正敏)は、アルコール依存症で病院に入院中。ある日、勝手に退院してきた夫は、作家になると宣言したものの原稿も書かずにまた酒に手を伸ばしてしまう。やがてカモシダは日に日に酒による妄想がひどくなり、とうとうサイバラは離婚届けを突きつける。失ったものの大きさに気付いたカモシダは、完全隔離された病院に転院することを決意。時は流れ、遂にカモシダが依存症を克服、サイバラは元夫を家族として再び迎え入れるのだったが、喜びも束の間、今度はカモシダのガンが発覚する。
本作は、西原理恵子の作品で自分自身を綴った自伝コミック(エッセイ漫画と言った方が正しいか?)の映画化である。ここ数年で5作品ものサイバラ漫画が映画化されているが、何故こんなにも彼女の漫画がウケているのだろう。彼女が描く作品に登場する女性たちは殆どと言って良いほど、ロクな男と付き合って(もしくは結婚して)いない。なのに女性たちは皆、力強く二本の両脚で大地に踏ん張って生きているのだ。今の不景気な世の中で、益々男の弱さが露呈されて来たからこそ、自立する女性たちに賛同されているのだろう。2002年から毎日新聞で連載が始まった本作は当初、子供を相手に孤軍奮闘するお母さん日誌的な内容であった。(だからタイトルも『毎日かあさん』なのだが…)彼女の夫で元戦場カメラマン鴨志田穣が既にアルコール依存症に陥っており、度々そのエピソードも自虐的に取り上げ、夫婦の葛藤も描かれるようになる。結果的には酒のせいで幻覚を見るようになり、飲酒と吐血、そして入院を繰り返す鴨志田に「このままでは二人共ダメになる」と西原から離婚を申し出て、連載の中で離婚の発表までしてしまった。この経緯は鴨志田の書いた自伝小説を映画化した『酔いがさめたら、うちに帰ろう』を観ると違った角度から西原夫婦の生活を見ることが出来るのでオススメする。
2007年から映画化の準備を進めていた小林聖太郎監督だったが、その最中に鴨志田の訃報が入り、更には西原が『毎日かあさん』のコミック4巻に描き下ろしを加えた事で、脚本の再構築を行ったという。その結果、本作の後半は西原&鴨志田夫婦のアルコール依存症との闘いがメインとなっている。これを一本の筋道を作らずに一話完結の風合いを残しながら日々のエピソードを紡いでいるのが良かったと思う。ひとつの出来事が終わるからこそ次のドラマが始まる…我々の毎日なんて正に読み切りの連続で成り立っているのではないだろうか?子供たちだってそうやって成長しているのだし…。ユニークなのはところどころに西原漫画のキャラクターがアニメーションとなって動き始めたりするところ。決して奇をてらったギミックに走っているのではなく西原ワールドの中にいる少女やお母さんたちは皆、同じなのだ…と表しているように思えた。
本作で夫婦を演じた小泉今日子と永瀬正敏の元夫婦共演も話題となったが、純粋に二人の間に流れる空気が単なる演技だけでは表現し切れない雰囲気を醸し出していたのは率直に感じた事だ。小泉が子供たちを窘める時に発するセリフのトーンと夫に対するトーンの使い分けが異なるのは、まぁ…つまりそういう事なのかも知れない。小林監督が助監督時代に小泉と出会った『雪に願うこと』でも寄宿舎の寮母として母のような優しい貫禄を見せていたが、本作の彼女も同じように子供や夫に対して大きなエプロンで包み込む優しさを持ち合わせている。対する永瀬の居場所のなさげな表情が実に情けなくてイイ。本当の鴨志田穣という人を知らないが、酒を飲んで義母から三行半を突き付けられて、子供だけは味方に付けようと寿司と間違えて娘(演じる小西舞優の可愛い事といったら…)が望んでいた犬を買ってくるなんて呆れる程に可愛いではないか。ただし、それは男的な見方であり、多分世の女性陣は「バッカじゃないの?」と一笑に伏す事だろう。ただ、これが西原ワールドの面白いところであり、父親もアルコール依存症でドブ板に挟まって死んでしまったという過去(『いけちゃんとぼく』でこのエピソードが描かれている)から、そういった男の“しょーもない”ところを可愛く思い愛しているのではないだろうか?
「スカは当たりクジには化けんぞね」うだつの上がらないアル中亭主の事を西原の母親が言うセリフ。その通りだ…人間そう簡単には変わらない。