日本映画界において俳優と監督、二つの顔を持つ竹中直人。ここでは俳優・竹中直人にスポットを当てて紹介したいと思う。(監督・竹中直人については近日中に特集を予定)さて、竹中直人という俳優について真っ先に思い浮かぶのは、気がついたら、いつの間にか映画の世界に怪優がいた…という印象。そんな感じで突如、バイプレイヤーとして、様々な作品に出演していた竹中直人。あれっ?この人ってコメディアンじゃなかったの?と思っていた人も多かったに違いない。彼が青年座に所属している舞台の役者さんで、テレビのバラエティーで披露するモノマネは活動の一部だと知るのは、かなり後になってからの話しだ。確かにバリトンボイスの強面から一転して、ヘラヘラしたキャラクターに変化するのは、単なるコメディアンの域を越えていた。もっとも、映画にしてもデビュー作は新東宝製作の『痴漢電車 下着検札』というピンク映画だから一般人が知る由も無いのだが…。俳優として竹中直人が注目を集めたのは五社英雄監督が若き陸軍兵士たちの決起をオールスターキャストで描いた問題作『226』だった。竹中は血気盛んな青年将校に扮し、国を憂う心に反して国家反逆者とされてしまい、自分を見失った言動を繰り返す姿は強く印象に残った。竹中直人が演じた役で比較的多いように思われるのが、いつもは穏やかで平凡な男が何かのキッカケで常軌を逸し、異常な行動に出てしまう…というもの。人間の二面性を巧みにいきき出来る彼の持ち味が活かされている配役と言えるだろう。

 竹中直人を語るに欠かせない4人の監督がいる。人間の秘めた狂気を表現して見せたのが石井隆監督だ。『GONIN』で竹中は、リストラされ家族に蔑まれた末、狂ってしまった男を見事に演じた。カルト的な人気を博するこの映画で竹中は、主人公と共にヤクザから大金を強奪し、既に家族をバットで殺していた…という、かなりヤバい役だ。妻の死体と風呂に入る竹中は本当に怖く、その日の夢に出て来た程。石井監督作品は竹中の狂気性を存分に引き出した名作が多い。『ヌードの夜』は殺人事件に巻き込まれた男の悲哀を描いており、クールな代行屋が次第に謎の女に惹かれて行く姿を存在感たっぷりに演じていた。また、和田勉が監督した問題作『完全なる飼育』を忘れてはならない。本作での役どころは、誘拐監禁した女子高生との間に展開される屈折した愛情を育む犯人。自分の感情を表現出来ない男がとんでもない行動を起こす姿は竹中の真骨頂とも言える。

 一方、コメディリリーフとしての竹中を引き出していたのが矢口史靖監督と周防正行監督。矢口監督作品では頼りない指導者が多く、周防監督作品では肝心なところで失敗する男といった役回りが多い。矢口監督の『ウォーターボーイズ』は、男子高校生にシンクロの極意を教えるイルカの調教師。『スウィングガールズ』では、女子高校生にジャズの真髄をレクチャーするロクにサックスも吹けない高校教師。共にマニアックな奇人を楽しそうに演じていた。監督は違うが曽利文彦監督作品『ピンポン』でも卓球に人生を賭ける熱血顧問を好演していた。周防監督作品『ファンシィダンス』がある意味、俳優・竹中のターニングポイントとなっていた事は間違いない。バラエティーに出ていた彼の特性を巧みに引き出し、主人公をいたぶる先輩坊主役が憎らしい反面、時たま見せる情けなさが絶妙だった。この映画において映画俳優・竹中直人の認知度が広がったと言って良いだろう。続く『シコふんじゃった』では、一度も勝った事がない相撲部のキャプテンを演じ、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞する。試合の度に腹をくだす抱腹絶倒の演技で竹中のマルチプレイヤーぶりを知る事が出来る。更に、周防監督の代表作となった『Shall we ダンス?』でもダンスをこよなく愛すKYな中年サラリーマンをノリノリで演じ、2度目のアカデミー賞最優秀助演男優賞を獲得する。ラテン系のノリで自己流にアレンジしたダンスシーンは見ものであった。

 主演作こそ少ないものの名脇役として高く評価された竹中に、主役の座が回ってきたのが日本映画界が誇る名脇役・殿山泰司の人生を描いた新藤兼人監督作の『三文役者』だったというのは皮肉な話だ。しかも、この作品で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞してしまうのだ。単なる物真似ではなく竹中独自の殿山像(デビュー間もない頃『ロケーション』で殿山と共演をしている)は、観る者を圧倒する。本作の新藤監督は「殿山を竹中が演るのではなく、竹中が殿山を演るのである。殿山を竹中が感じるのであって、殿山に竹中がなることではない」つまり、いくら伝記ものとは言えどもモノマネを求めているのではなく新藤監督は竹中直人の体内に取り入れた殿山像を求めており、見事に竹中はその要望に応えてみせたのだ。竹中の顔は骨格がしっかりしており、ゴツゴツした顔立ちは昭和がよく似合うのだろうか。主演作には昭和という時代が色濃く反映されているものが多い。自分の信念を曲げずに我が道をひたすら進む人物…堤真一監督作品『まぼろしの邪馬台国』で演じた盲目の考古学者も妻に苦労をかけながらも日本中を旅して邪馬台国を見つけるという信念は変えない男だ。

 最後に竹中直人を語るに欠かせない4人目の監督だが…言わずもがな監督としての竹中直人自身である。近々、竹中監督特集を予定しているので詳しくは次の機会に述べるとして監督としても俳優としても素晴らしい才能の持ち主である事は、充分理解できるはずだ。自身の監督作品に出演する時の役柄はどちらかというと大人しめで消極的なタイプが多いのも特筆すべき点。『無能の人』は妻に生計を立ててもらっている落ちぶれた漫画家。『119』は東京から来た女性に憧れる平和な町の消防士。『東京日和』は情緒不安定な妻を優しく受け止めるカメラマン。『連弾』は妻に不倫された専業主夫。『さよならCOLORE』は初恋の女性のために自分の病気をさておいて献身的に助けようとする医師。…と、いずれも女性の方が強いか、好きな女性に自分の思いを告げられない男ばかりである。作品毎に全く異なる顔を見せる竹中直人。次に何を演じるか?想像がつかないから面白い。


竹中 直人(たけなか なおと 1956年3月20日生まれ)NAOTO TAKENAKA 
神奈川県横浜市金沢区富岡出身。
 横浜市立富岡小学校、横浜市立金沢中学校、関東学院六浦高等学校、多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。大学在学中は映像演出研究会に所属。8ミリ映画の制作に没頭し、監督から出演までこなした(ブルース・リーをモチーフにした作品が多く、代表作は「燃えよタマゴン2」)。大学在学中の1978年に劇団青年座に入団。前年の1977年、『ぎんざNOW!』(TBS)の「素人コメディアン道場」で第18代チャンピオンに輝き、芸能界入り。その後、『TVジョッキー』(日本テレビ系)の素人参加コーナーへ出演しモノマネ芸でチャンピオンとなり注目される。1983年、テレビ朝日『ザ・テレビ演芸』のオーディションコーナー「飛び出せ!笑いのニュースター」に出場し、グランドチャンピオンとなり脚光を浴びる。同番組で司会を務め、普段は辛口な評論をする横山やすしからも絶賛された。1985年には大竹まこと、きたろう、斉木しげる、いとうせいこう、宮沢章夫らと演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を結成し、人気を博す。1990年に青年座を退団後、劇作家の岩松了と組んで「竹中直人の会」を開始、2002年に至るまでほぼ一年に一度のペースで公演を行う。また故・忌野清志郎と親交が深く、キネマ旬報社から出版されているムック本の責任編集を務めている程だ。
 1991年、つげ義春の漫画『無能の人』を映画化する際、奥山和由に才能を見出されて主演を務めると共に監督にも抜擢され、同作にて映画監督デビュー。その後コンスタントにジャンルに捕らわれない様々な作品を発表。海外での評価も高い。主な受賞歴としては 『無能の人』で、ヴェネチア国際映画祭国際批評家連盟賞、ブルーリボン賞主演男優賞、報知映画賞新人賞を受賞。俳優としては、『シコふんじゃった。』『EAST MEETS WEST』『Shall we ダンス?』にて日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。そして『三文役者』にて日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞している。
(Wikipediaより一部抜粋)

(竹中直人 公式HP http://www.from1-pro.jp/talent/TakenakaNaoto.html



【参考文献】
竹中直人 期待の映像作家シリーズ (キネ旬ムック フィルムメーカーズ)

191頁 20.6× 14.8cm キネマ旬報社
忌野清志郎【責任編集】
各1,680円(税込)

【主な出演作】

昭和59年(1984)
痴漢電車 下着検札
夕ぐれ族
ロケーション

昭和60年(1985)
薄化粧

昭和61年(1986)
幕末青春グラフィティ
 Ronin坂本竜馬
十手舞

昭和62年(1987)
ベッドタイムアイズ
吉原炎上
永遠の1/2
私をスキーに連れてって

昭和63年(1988)
天使のはらわた
 赤い眩暈
木村家の人々
噛む女

平成1年(1989)
ファンシイダンス

平成2年(1990)
宇宙の法則
ガタピシ物語

平成3年(1991)
ふたり
妖怪ハンター ヒルコ
無能の人

平成4年(1992)
シコふんじゃった
死んでもいい

平成5年(1993)
乳房
ヌードの夜

平成6年(1994)
RAMPO
夜がまた来る
119

平成7年(195)
四姉妹物語
写楽
EAST MEETS WEST
GONIN
TOKYO FIST
 東京フィスト
人でなしの恋

平成8年(1996)
Shall we ダンス?

平成9年(1997)
瀬戸内ムーンライト・セレナーデ
東京日和

平成10年(1998)
MIND GAME
アンドロメデイア
岸和田少年愚連隊
 望郷

平成11年(1999)
のど自慢
完全なる飼育
共犯者
日本黒社会
双生児

平成12年(2000)
フリーズ・ミー
蝉祭りの島
さくや妖怪伝
三文役者

平成13年(2001)
連弾
STEREO FUTURE
完全なる飼育
 愛の40日
RED SHADOW 赤影
ウォーターボーイズ
千年の恋
 ひかる源氏物語

平成14年(2002)
カタクリ家の幸福
およう
ピンポン
恋に唄えば♪
完全なる飼育
 香港情夜

平成15年(2003)
あずみ
完全なる飼育
 秘密の地下室

平成16年(2004)
スウィングガールズ
サヨナラCOLOR

平成17年(2005)
猫目小僧
予感
妖怪大戦争

平成18年(2006)
男はソレを我慢できない

平成19年(2007)
グミ・チョコレート・パイン

平成20年(2008)
まぼろしの邪馬台国
ぼくたちと駐在さんの700日戦争
ポストマン

平成21年(2009)
のだめカンタービレ
 最終楽章
僕らのワンダフルデイズ
山形スクリーム




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