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映画照明の第一人者である熊谷秀夫氏に師事し、『夜叉』『RAMPO』『東京日和』において3度の日本アカデミー賞照明賞を受賞した日本映画界を代表する照明技師・安河内央之氏。安河内氏が主宰する“アキルフィルム”は、映画制作を志す監督・俳優を支援する団体として設立され、これまでに30本近くの短編映画が作られている。全ての作品は35mmフィルムで撮影されており、自主映画製作の現場においてデジタル化が進む昨今、「伝統的な映画制作方法を次世代へ継承したい」という理念から、あえて現像代などのコストが掛かるフィルムにこだわり続けている。勿論、デジタル撮影も可能で、東京都西多摩にある私設スタジオでは、オープンセットから編集、ダビング、試写室まで完備しており、本格的な機材を使用した映画制作を行う事が出来るのだ。更に、長野県上田市にも自身が所有する土地に“映画の里”と称するカフェレストラン風のセットを自前で建設。「映画に夢を持つ若者が集う場所にしたい」という安河内氏の言葉通り、様々な短編映画の制作がコチラで始まっている。 “アキルフィルム”は、監督や俳優志望の人たちで自主映画を作るだけに留まらず、ここに参加した人々を安河内氏が手掛ける作品に起用するといったチャンスも広がっている。現在、活躍中の俳優・田中要次氏も下積み時代は安河内氏の下で、照明の仕事を手伝いつつチャンスを手にした人間の一人だという。「ただ単に映画を作るだけではなく、夢を持った若者を育てる…というのが掲げている目的のひとつですから、せっかく作った映画をお客さんにお金を出して観に来てもらわなくては意味がない」という安河内氏の思いは今年、“ブリリア ショートショート シアター”にて代表作が特集上映されることで、まずは第一歩を踏み出したと言って良いだろう。ラインナップの中には安河内氏と長年に渡るパートナーとして絶大な信頼関係にある竹中直人監督が故・忌野清志郎を主人公に迎えた『u2』等が一般劇場としては初上映が実現している。このように“アキルフィルム”の大きな特徴としては、自主制作の短編でありながら安河内氏の趣旨に賛同したプロの俳優陣(佐藤江梨子、村上淳、篠原ともえ、坂井真紀、津田寛治、鶴見辰吾ら)が、多数出演されている事だ。 「35mmフィルム撮影やセットにこだわるのは、やはり画面上で見た時に手間ひまやお金をある程度掛けないと良いものが出来ないからです。」と語る安河内氏はセットのカウンター等、自らの手で作ってしまう。また、“アキルフィルム”で制作される作品は、自主映画と言えどもプロの視点が入るため、俳優の立ち位置のよって明るさと変わる事によるライティングや絞りのアドバイスを安河内氏が的確にしてくれる。「やはり、映画ですから映像がキチンとしていないと観ている方も感情移入が出来ないはずですから、細かいところまで目を配ってあげるのが私の役目だと考えています」と言われる通り、現場では安河内氏がモニターを食い入るようにチェックして照明の位置をアドバイスされている。「最近、デジタル化が進んで便利になって来ていますけど、私は35mmから離れたくないと思っています。フィルムは対象を一番キレイに表現出来るものなんです。若い人に35mmの良さを伝えて行きたい…というのが“アキルフィルム”を立ち上げた大きな理由です」と語る安河内氏。映画界に入った時から、ずっと観続けて来たフィルムの美しさを失いたくないという安河内氏の思いに賛同した約20名近くのクリエイターや俳優の卵が映画作りに参加している。最後に「難しいからこそ、35mmに食いついて行こうと思っています」という安河内氏の言葉が印象に残った。 |
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