居酒屋兆治
人はどこかで、それぞれの影を引きずって生きている。

1983年 カラー ビスタビジョンサイズ 125min 中プロモーション
製作 田中壽一 監督 降旗康男 脚本 大野靖子 撮影 木村大作 美術 村木与四郎 照明 安河内央之
音楽 井上尭之 美術 村木与四郎 原作 山口瞳 録音 紅谷愃一 編集 鈴木晄 助監督 桃沢裕幸
出演 高倉健、加藤登紀子、大原麗子、田中邦衛、伊丹十三、左とん平、美里英二、佐藤慶、山谷初男
平田満、池部良、小松政夫、細野晴臣、東野英治郎、大滝秀治、石野真子、小林稔侍、武田鉄矢


 函館の街を舞台に小さな居酒屋を営む男と初恋の女とのすれちがう想い、その店に集まる人々の人生模様を描いた群像劇。山口瞳原作の同名小説の映画化で、原作では東京郊外という設定を歴史的建造物と豊かな自然が調和する函館に舞台を移している。主人公の兆治に『幸福の黄色いハンカチ』『駅 STATION』において、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した高倉健を迎え、激情の恋に生きる元恋人さよに『網走番外地』シリーズ以来、久しぶりの共演となる大原麗子、兆治の妻に映画初主演のシンガーソングライター加藤登紀子が扮する事で大きな話題となった。また、兆治の親友役に高倉健と公私共に親交の厚い田中邦衛の他、居酒屋に集う客には伊丹十三、平田満、池部良、武田鉄矢、細野晴臣、小松政夫などオールスターキャストで様々な人生が綴られている。脚本は『未完の対局』の大野靖子、監督は『駅 STATION』の降旗康男、撮影は『小説吉田学校』の木村大作がそれぞれ担当している。また、高倉健が歌う主題歌“時代おくれの酒場”は加藤登紀子が以前から歌っている代表曲で、かつて高倉健が『海峡』のロケ中に聞いてから心から離れなくなり本作での共演のオファーにつながった。


 兆治こと藤野伝吉(高倉健)は函館の街はずれで、妻の茂子(加藤登紀子)と「兆治」という名の居酒屋を営んでいた。兆治は勤めていた造船所を出世と引き換えに首切り役を命じられたことに反発して会社を辞めていた。寡黙で実直ながら気持ちが曲げられず無器用な兆治であったが、店は繁盛しており、兆治の親友岩下(田中邦衛)をはじめ、元の会社の同僚や近所の先輩で酒癖の悪いタクシー会社経営者河原(伊丹十三)たちが毎晩のように足を運んで賑わっていた。ある夜、近郊にある神谷牧場が牧場主の妻さよ(大原麗子)の不注意から火事に見舞われ、さよは街から姿を消してしまった。かつて、兆治はさよと恋人だったが、旧家の牧場主との縁談に、若く貧しかった兆治は黙って身を引いたという過去があった。しかしさよは、今でも兆治を想いつづけいたのだ。そんな事件も落ち着いた頃、常連客の奥さんが死んで、その顛末などで悪口を言う河原を殴った兆治は警察に留置される。釈放されひさびさに店に戻った兆治にバーの峰子(ちあきなおみ)からさよをすすき野で見た人が居るとの話を聞く。昔のさよの写真を引き伸ばし、すすき野の繁華街を訪ね回る兆治は造船所時代の後輩の越智(平田満)と偶然にあう。越智はすすき野のキャバレーでホステスとして働いていたさよに結婚を申し込んでいるという。兆治はさよの部屋を訪ねるが、そこには酒で身体を病み息絶えていたさよの姿があった。


 監督・降旗康夫&主演・高倉健のコンビは“冬の華”“駅 STATION”と名作が続いていただけに、本作への期待は当然ながら大きかった。健さんが出演する映画は北(それも雪が降り積もる冬)が多く、また健さんも雪がよく似合う。山口瞳原作の同名小説の映画化である本作は、北国・函館が舞台ではあるものの季節は夏から秋…と、珍しく雪は出て来ない。モツ焼き屋に集まる人々の群像劇を東宝のお家芸とも言えるオールスターキャストで描かれており、健さんはそこの主人。最大限に健さんの魅力を引き出した神波史男の脚本が素晴らしく、何と!2週間でシナリオを書き上げたというのだから驚く。さすが、降旗監督が全面の信頼を寄せていただけの事はある。主役の健さんは元より、脇の登場人物たちが発するセリフのどれもが光輝いているのだ。また、“網走番外地 決闘零下30度”以来久しぶりの共演となる大原麗子との絡みもファンにとって感涙ものだった。
 殆どドッグの灯りしかないような薄暗い函館の倉庫が建ち並ぶ港にある小さな居酒屋。しかし、一歩中へ入ると外からは想像もつかないほど店内は明るく、カウンターだけの店内にひしめき合って飲んでいる客の面々は日によって顔ぶれが変わってゆく。群像劇の舞台として、これほど理想的な設定は無いであろう。カウンター内の調理場に立つ健さんと妻を演じる加藤登紀子が常に物語の中心にいて、他の出演者は皆、主役の方を必然的に向いて芝居をする事となるわけだ。その分、動きの少ない健さんは、やり難かったと思うが…。しかし、色んな役者の芝居を堪能し楽しむ事が出来た。こうした作品で面白いのは、ちょっとだけ顔を見せるカメオ出演。健さんと絶妙なコンビを組んできた田中邦衛と池部良がガッチリ脇を固め、武田鉄矢や細野晴臣といったミュージシャンが笑いを誘う。なんて贅沢な映画だろうか。中でも素晴らしい演技を見せてくれたのがライバルタクシー会社の伊丹十三と小松政夫のお二人。特に情けない男を全開にする小松の泣きの演技はアカデミー賞ものだった…と、思うのだが。
 映画で描かれているのは、オイルショックから10年が過ぎようとしている頃…景気は不安定なままで先が見えない時代を降旗監督は兆治という居酒屋にサラリーマンやらホステスやらを集めてフレームに切り抜いて行く。その中で、時代の犠牲者となったのが、主人公・兆治なのだ。オイルショックを契機に高度経済成長期から一気に不景気へとなだれ込んだ社会に初めて“人切り=リストラ”が行われたのが、まさにこの時代。造船会社に勤めていた兆治は、引導を渡す役目を嫌って脱サラして始めたのがモツ焼き屋というわけだ。人の痛みや悲しみを理解できる男を演じさせたら健さんの右に出る者はいないが、本作は正に、その集大成と言っても良いかも知れない。20代から30代にかけて任侠映画でスターダムにのし上がった健さんが50代になって堅気の生き様を本作で披露している。仕事に疲れた時に観たい映画だ。

「ちょっと待ってください…なにしろ、ぶきっちょなもんですから」出た!人情味溢れる健さんが演じる人柄が色濃く現れる名セリフだ。


レーベル:東宝(株)
販売元: 東宝(株)
メーカー品番: TDV-15005D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,253円 (税込)

昭和58年(1983)
居酒屋兆治

昭和60年(1985)
魔の刻
夜叉

昭和61年(1986)
ザ・サムライ
ノイバウテン 半分人間
ビリィ★ザ★ギッドの新しい夜明け

昭和62年(1987)
新宿純愛物語
ロビンソンの庭

昭和63年(1988)
1999年の夏休み
海へ See You

平成1年(1989)
キスより簡単
風の又三郎
バカヤロー!2
 幸せになりたい
cfガール

平成2年(1990)
われに撃つ用意あり

平成3年(1991)
あいつ
無能の人
王手

平成4年(1992)
寝盗られ宗介

平成5年(1993)
月はどっちに出ている
ヌードの夜

平成6年(1994)
夢魔
RAMPO奥山監督版
119

平成7年(1995)
RAMPOインターナショナルVer
人でなしの恋

平成8年(1996)
男たちのかいた絵

平成9年(1997)
秋桜
東京日和

平成10年(1998)
秘祭
元気の神様

平成11年(1999)
白痴
黒の天使 Vol.2

平成12年(2000)
フリーズ・ミー
ホーム・スイートホーム

平成13年(2001)
連弾
DRUGドラッグ
TOKYO G.P.

平成14年(2002)
およう
黄昏流星群
 星のレストラン

平成15年(2003)
ホーム・スイートホーム2 日傘の来た道

平成16年(2004)
花と蛇
サヨナラCOLOR

平成17年(2005)
ゴーヤーちゃんぷるー

平成18年(2006)
おばちゃんチップス
旅の贈りもの0:00発

平成21年(2009)
山形スクリーム




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