初めて尾美としのりという俳優(というより少年)に出会ったのは手塚治虫の名作『火の鳥』の主人公ナギ役であった。オールスターキャストで東宝が力を入れていた超大作で主役デビューを果たすなんて、この先どんな俳優になって行くのか注目されていた。その2年後、相米慎二監督の名作『翔んだカップル』で薬師丸ひろこと共演し、すっかり子役から青年俳優へと成長した姿を披露してくれた。残念ながら本作は、メディアというメディアが角川映画のニューヒロインに力を入れていたから、クオリティの高さの割には彼がフィーチャーされる事は殆ど無かった。しかし、わずか2年後に尾美としのりの名が一気に日本全国に知れ渡る作品が現れる。大林監督の代表作にして日本映画界における不朽の名作となった『転校生』の主役・一夫だ。女の子の精神が入ってしまった男の子という設定だからほぼ全編オカマ口調で通して、その演技力が高く評価された。勿論、その評価に異論はないが、筆者はむしろ一美と入れ替わる前、ふてくされた表情と投げ捨てるように乱暴な口をきく姿に味があって今までの日本映画にはいなかったタイプに“面白い役者だなぁ”と思った。そして、見事にこの年の日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得する事となる。
やはり大林監督はその持ち味を見極めたのか、続く『時をかける少女』でも原田知世演じるヒロイン和子に片思いする気持ちを仏頂面で隠す醤油屋の息子・吾郎ちゃんを好演。意中の和子が、家の手伝いで醤油仕込みををしている吾郎に、「あたしお醤油の匂いって好きよ」と、話し掛けているのに「そういうお気楽な事を醤油屋のせがれの前では言って欲しくないね」と返してしまうのだから…でも、その不器用さが結構リアルなのだ。そして、再び主役に抜擢された『さびしんぼう』でも富田靖子演じるさびしんぼうに冷たく当たる(水が苦手という彼女に水を掛けちゃうのだから)今どきのリアルな高校生を熱演していた。これら尾道三部作のキャラクターを観ていると共通しているのは全て、好きな女の子に対して冷たい態度をとる…というところ。まぁ『さびしんぼう』に関しては、ヒロインを演じた富田靖子には素直な態度をとっていたが。確かに彼の場合、笑顔よりも無表情又はふてくされている顔の方が絵になっており、『はるかノスタルジィ』でも石田ひかり扮する主人公に何故かドイツ語で皮肉を言うクリーニング屋の息子(片思いがバレバレなのが切なく微笑ましい)を嫌みたっぷりに演じていた。この役は『廃市』で演じた船頭に似ており、両者共にヒロインへの想いを上手く表現できず、その代わり寄り添うように(まるで姫を守る家来のよう?)律儀なアッシーになる事で想いを代弁しているのだ。とにかく大林作品において、彼は笑わない。常に蓮に構えて物事を眺めているようで正に彼の世代が言われていたシラケ世代を地で行く演技をしていたわけだ。『漂流教室』では主人公が通う学校の用務員・関谷役で本格的な悪役に挑戦。砂漠と化した未来へタイムワープした事からパニックに陥り、本性を剥き出しに主人公たちを窮地に陥れる…というそれまでの大林作品のキャラとは違った新境地に挑んでいた。ただひとつ残念なのは梅図かずおの原作では平時の時は気の優しい男という設定だったのだから、その一面も描いて欲しかった。(そのキャラを尾美ならば、きっちりと演じ切っただろうと今でも確信しているのだが…)
尾美は、大林映画に無くてはならない常連となり、次第に活躍の場を広げながら、テレビや舞台といった数多くの作品で名バイプレイヤーぶりを発揮。そんな中、藤田敏八監督の『リボルバー』では、冒頭からいきなり好青年的な笑顔を見せて、柄本明との絶妙な掛け合いで今までのような偏屈キャラとは違った面を披露していた。それ以後も神経質な(やはり嫌みなキャラは健在)役が多いものの完全な悪役ではなく『ジェネラル・ルージュの凱旋』の病院事務長みたいな最後にはイイ人となるのも傾向として多く見られる。興味深いのは映画では気難しい役が多いのにテレビドラマではコミカルな役が多い事だ。人気時代劇“鬼平犯課帳”では頼りなくも人情味溢れる同心を。宮藤官九郎脚本の“タイガー&ドラゴン”では落語好きの蕎麦屋の道楽主人を好演するなど映画とは違った面を覗かせている。
尾美 としのり(おみ としのり、本名:尾美 利徳 1965年12月7日 - ) TOSHINORI OMI
東京都目黒区出身。
幼稚園の頃に劇団ひまわりに入団。1978年、13歳で市川崑監督の映画『火の鳥』の主人公ナギ役のオーディションに受かり、子役としてデビュー。翌年にはNHKのテレビドラマ『ぼくは12才』に主演している。以降は学業と俳優業を両立させつつ、1980年に相米慎二監督の『翔んだカップル』に出演し子役から青春俳優へと脱皮した。そして、その名を一躍広めたのが1982年、大林宣彦監督の映画『転校生』の主役の一人に抜擢され、注目を集める。以後、1990年代前半までのほとんどの大林作品に出演、常連の顔となる。他にも、通好みの作品やB級映画などにも出演。陰ある青年像、生真面目なサラリーマン、そして何を考えているのか分からない不気味な犯罪者など、幅の広い役どころを得意としている。TVにおいてはサスペンスの民放2時間枠ドラマに多く出演。NHK大河ドラマでは『北条時宗』(2001年)で足利利氏(のちの頼氏)役や『鬼平犯科帳』の木村忠吾役、『タイガー&ドラゴン』のそば屋の辰夫役が有名。尚、CMでも2000年「JR東日本」においては父親役で登場、静かな評判を呼び、近年、別のCMでは思春期の娘を持ちながら奮闘する姿も演じている。一方でCM「りそな銀行」や、日本生命のキャッチコピー「生きるチカラ」シリーズにおいての優しい語り口のナレーションが好評で、お茶の間で親しまれている。(Wikipediaより一部抜粋)
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