男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎
さくら、兄ちゃんは罰が当たっちまったよ!三日坊主とお笑いくださいまし。

1983年 カラー シネマスコープ 105min 松竹(大船撮影所)
製作 島津清、中川滋弘 企画 小林俊一 監督、脚本、原作 山田洋次 脚本 朝間義隆 
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 出川三男 録音 鈴木功 照明 青木好文 編集 石井巌
出演 渥美清、倍賞千恵子、松村達雄、竹下景子、中井貴一、杉田かおる、下條正巳、三崎千恵子
前田吟、吉岡秀隆、笠智衆、太宰久雄、佐藤蛾次郎、レオナルド熊、長門勇、石倉三郎、あき竹城


 「男はつらいよ」シリーズ第32作目。マドンナに、当時“花嫁にしたい女優ナンバー・ワン”と人気絶頂の竹下景子、その弟に中井貴一、弟の彼女に杉田かおるを迎え、晩秋の吉備路・岡山の備中高梁を舞台に寅さんとお寺の娘との恋物語が描かれる。さくらの夫・博の父のお墓参りに訪れた寅さんが、そこの寺の住職に気に入られた事から住職見習いになってしまう。そんなお寺に博の父の法事でさくらたちがやってくるという喜劇映画の演出を押さえ、日本映画史上に残る名シーンとなった。また、冒頭とラストシーンに出て来るレオナルド・熊が、本作から松竹と専属契約を結び、大きな話題となった。


 車寅次郎(渥美清)は義弟の博の生家がある備中高梁で、博の亡父の三回忌にあたり墓参りに訪れた。そこで寺の和尚(松村達雄)と娘の朋子(竹下景子)に出会い、すっかり和尚と意気投合する。翌日、帰ろうとした寅次郎だったが、二日酔の和尚に代って法事に出たところ、寅次郎の名調子の弁舌がすっかり檀家の人たちに気に入られてしまい、寺に居つくハメになった。数日後、博、さくら、満男の親子三人が三回忌の法事で寺にやってきた。そして、介添の僧の姿をした寅次郎を見て度胆を抜かれる。ある日、大学をやめて東京の写真スタジオで働くという寺の跡継ぎである一人息子の一道(中井貴一)を和尚は勘当同然に追い出した。ある夜、和尚と朋子の「寅を養子に貰うか」という会話を耳にした寅次郎は、翌朝、書きおきを残して東京に発った。とらやに戻った寅次郎は、一同に余生を仏につかえることを告げ、帝釈天での押しかけ修業を始める。数日後、柴又を訪ねて来た朋子は、見送りに来た寅次郎にそれとなく好意を伝えるが、寅次郎は冗談としてうけとりはぐらかす。朋子は悲しげに去っていき、そして寅次郎もまた旅に出るのであった。


 竹下景子がマドンナの『男はつらいよ』は、全3作品あるが、その内2作で寅さんにフラレている不運のマドンナだ。しかし、その2作品がシリーズ屈指の人気を誇る名作である事は、多くの『男はつらいよ』ファンに竹下景子マドンナが支持されているのに他ならない。しかも、寅さんを追って柴又まで気持ちを確かめに来るのだから、かなり積極的というか本気で寅さんに惚れていたのが伺える。寅さんが訪れた土地の娘に惚れてしまうのはいつものパターンなのだが、相手も寅さんに想いを明確に寄せるというのは、この時期の『男はつらいよ』シリーズの特徴だ。
 本作で舞台となっているのは、数年前に他界した博の父が眠る備中高梁のお寺だ。寅さんにとって人生の師と言っても良いだろう博の父の葬儀に出られなかった寅さんが、墓前で酒を注ぎながら、しみじみと思いを語るシーンは目頭が熱くなった。名優・志村喬との共演を果たした第8作と第22作を思い出すと感慨深いものを感じる。志村喬も、もうこの世にはいない。寺を後にして帰ろうとした寅さんの前に現れたお寺の一人娘・朋子…酒に酔って足元もおぼつかない住職(二代目おいちゃんの松村達造がとぼけた住職を好演)を手助けした事から寺に住み込みで働くようになる過程が本作の見どころだ。山田監督と脚本家の朝間義隆は構成を考えるに当たって唐突にならないようにかなり練ったのだろう。時間の経過と共に街の人々から頼りにされ、そして朋子からも信頼以上の情感を得るまでの流れが自然なのだ。二日酔いで法事を忘れていた住職のピンチヒッターで出向いた寅さんが、法事をメチャクチャにするのでは…という大半の不安を裏切り、いつもの名調子で人気ものになってしまうシーンは実に楽しい。山田監督は、観客が喜ぶポイントをさすがに心得ており、本作はそれが顕著に現れたと言って良いだろう。続いて博の父の三回忌が笑いに追い討ちを掛ける。まさか、そこに寅さんがいるとは思ってもいないさくらは、卒倒しかけてしまう。観客の期待に応えてふたつの山場を絶妙なタイミングで仕掛けてくる山田監督はやっぱり天才である!
 前半の山場は、父である住職の手助けをしてくれる寅さんに対して親愛の情が高まってくる朋子と寅さんの距離感にドキドキさせられるところ。後半の山場は何と言っても突然、出て行った寅さんを追いかけてかた朋子との恋の結末だ。結局、出家してお寺の跡を継ぎ朋子と結婚しようと帝釈天で修業を志すも敢えなく断念…己の浅はかさに身の程を知った寅さん。“とらや”に訪ねてきた朋子の「話したい事があるの…」という先に控えている言葉から逃げてしまう。彼女をさくらと共に見送る柴又駅のホームで、彼女を好きでいながら、結婚となると己の限界を知ってしまった寅さんが、彼女に最後まで決定的な言葉を言わせないようにしたのは寅さんなりの優しさではなかったのではなかろうか?二人に気遣って、そっと離れるさくらの姿が成就しない恋の切なさをより一層深めていた名シーンであった。

お坊さんになるには、どうしたら良いか?という寅さんが言う爆笑のセリフ。「医者になるより、もう少し楽なんじゃないか?もう相手、死んじゃってんだから。」


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DB-532 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和44年(1969)
男はつらいよ
続男はつらいよ

昭和45年(1970)
男はつらいよ
 フーテンの寅
新・男はつらいよ
男はつらいよ 望郷篇

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇
男はつらいよ 奮闘篇
男はつらいよ
 寅次郎恋歌

昭和47年(1972)
男はつらいよ 柴又慕情
男はつらいよ
 寅次郎夢枕

昭和48年(1973)
男はつらいよ
 寅次郎忘れな草
男はつらいよ
 私の寅さん

昭和49年(1974)
男はつらいよ
 寅次郎恋やつれ
男はつらいよ
 寅次郎子守唄

昭和50年(1975)
男はつらいよ
 寅次郎相合い傘
男はつらいよ
 葛飾立志篇

昭和51年(1976)
男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け

男はつらいよ
 寅次郎純情詩集

昭和52年(1977)
男はつらいよ
 寅次郎と殿様
男はつらいよ
 寅次郎頑張れ!

昭和53年(1978)
男はつらいよ
 寅次郎わが道をゆく
男はつらいよ
 噂の寅次郎

昭和54年(1979)
男はつらいよ
 翔んでる寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎春の夢

昭和55年(1980)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
男はつらいよ
 寅次郎かもめ歌

昭和56年(1981)
男はつらいよ
 浪花の恋の寅次郎

男はつらいよ
 寅次郎紙風船

昭和57年(1982)
男はつらいよ
 寅次郎あじさいの恋

男はつらいよ
 花も嵐も寅次郎

昭和58年(1983)
男はつらいよ
 旅と女と寅次郎
男はつらいよ
 口笛を吹く寅次郎

昭和59年(1984)
男はつらいよ
 夜霧にむせぶ寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎真実一路

昭和60年(1985)
男はつらいよ
 寅次郎恋愛塾
男はつらいよ
 柴又より愛をこめて

昭和61年(1986)
男はつらいよ
 幸福の青い鳥

昭和62年(1987)
男はつらいよ 知床慕情
男はつらいよ
 寅次郎物語

昭和63年(1988)
男はつらいよ
 寅次郎サラダ記念日

平成1年(1989)
男はつらいよ
 寅次郎心の旅路
男はつらいよ
 ぼくの伯父さん

平成2年(1990)
男はつらいよ
 寅次郎の休日

平成3年(1991)
男はつらいよ
 寅次郎の告白

平成4年(1992)
男はつらいよ
 寅次郎の青春

平成5年(1993)
男はつらいよ
 寅次郎の縁談

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓 車寅次郎様

平成7年(1995)
男はつらいよ
 寅次郎紅の花

平成9年(1997)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇




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