男はつらいよ ぼくの伯父さん
さくら、お前の息子が恋してるってよ。さすが俺の身内よ!

1989年 カラー シネマスコープ 108min 松竹(大船撮影所)
製作 内藤誠 プロデューサー 奥山和由 監督、脚本、原作 山田洋次 脚本 朝間義隆 
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 出川三男 録音 鈴木功 照明 青木好文 編集 石井巌
出演 渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、夏木マリ、後藤久美子、檀ふみ、下条正巳、三崎千恵子
前田吟、笠智衆、太宰久雄、尾藤イサオ、佐藤蛾次郎、笹野高史、今福将雄、関敬六、イッセー尾形


 今回のマドンナには国民的美少女、後藤久美子を迎え、「私が生まれる前から続いているシリーズに出演するなんて不思議な気持ち」と意欲を燃やしていた。本作からは、寅さん・渥美清の高齢化によって、恋愛模様も描きづらくなったという実情もあって、さくらの息子であり、寅さんの甥・満男の恋愛を描く“満男篇”がスタートする。満男を演じるのはドラマ“北の国から”で主人公・純役で知られる演技派・吉岡秀隆。寅さんは満男の恋の指南役に徹したおかげで、新しい寅さんの魅力を引き出す事に成功している。若き甥っ子のために渡世人としての粋な仁義を通す頼りがいのある寅さんが本作以降、描かれ続ける。共演に『男はつらいよ純情詩集』に引き続き二度目となる檀ふみ、ゴクミの母親役に夏木マリを迎えている。佐賀県の吉野ヶ原が今回のロケ地となり、風光明媚な日本の田舎町を高羽哲夫のカメラが美しく捉えている。


 寅次郎(渥美清)の甥・満男(吉岡秀隆)は浪人中の身であり人生に悩んでいた。そんな時、寅が柴又に帰ってきた。息子の悩みに応えきれないさくら(倍賞千恵子)は、寅に満男の悩みを聞いてくれと頼む。気軽に引きうけ、さっそく近くの飲み屋に満男を連れていき、そこで高校時代の後輩で佐賀へ転校してしまった泉という少女に恋していることを聞かされる。その夜満男のことで博と大ゲンカした寅はいつものごとくプイッと飛び出してしまう。一方満男は日に日に大きくなる恋と進学の悩みに遂に親子ゲンカ、そしてバイクに乗って泉のいる佐賀へと向かっていった。そこで偶然寅と再会した満男はさっそく二人で泉の家へ訪れていった。泉(後藤久美子)とも再会し、楽しい毎日を送る寅と満男だったが、泉の伯父(尾藤イサオ)とケンカした満男は柴又へと帰ってしまう。そして、寅も後を追うようにまた旅立っていった。年が明け、今だに泉のことが心残りな満男だったが、ある日家に帰ってみると泉が満男に会いに来ていたのだった。


 映画館の場内で拍手が起こった。『男はつらいよ』史上初めてではないだろうか?甥の満男が初恋の相手である泉が両親の離婚で佐賀の叔母の元に預けられて落ち込んでいる事を知り、家出同然にバイクで励ましに行くのだが、偶然そこで寅さんと遭遇。寅さんの後押しとアドバイスで泉に会う事が出来たものの、泉の叔父さんから不良の如くイヤミを言われ、すごすご東京へ引き返してしまう。拍手が巻き起こったのは、これ以降…翌日、挨拶に泉の預けられた家に挨拶に行った寅さんにも満男の行動を非難する泉の叔父に、「私は満男をむしろ誉めてやりたいと思います」と冷静に切り換えすのだ。これには、正直涙が溢れた。多分、その時会場を埋め尽くしていた観客は全て同じ気持ちだったに違いない。もう寅さんも20歳を過ぎたわけなのだから、キレるよりも淡々と繰り出すセリフの方がよほどズッシリ重みを感じる。
 『男はつらいよ』は、今まで何度か方向修正をしながら、常に時代に合わせた作品作りをしてきた。それは、年齢を重ねる人間・寅さんの成長と共に作品全体のトーンも変えざるを得なかったわけで、渥美清がかつてインタビューで「“男はつらいよ”をシリーズ全体を通して車寅次郎という男の映画としてみてもらえたら…」と語っていた事からも理解できる。とは言え今までは、どちらかと言えばマイナーチェンジ…しかし、本作ではかなり大きな方向転換をしているのが注目する点だ。ここから、寅さんの甥・満男にフォーカスを当てており、寅さんが若い世代に恋や人生のアドバイスをしてやるという次のステージに突入している。満男を演じている吉岡秀隆は、テレビドラマ“北の国から”で天才的な演技力を披露しており、充分渥美清と渡り合う実力を備えているからこそ実現できたわけだ。渥美清と出演シーンを二分する大役であるにも関わらず、持ち前の味を崩す事なく五分で渡り合うのは大したものだ。今まで寅さんがとってきた無謀を若さ故に満男が行い、それを寅さんがヒヤヒヤしながら窘める…誰が1作目の公開当時、こんな展開を想像出来たであろうか。
 優等生であるさくらや博よりも満男は寅さんに魅力を感じて自分の悩みを素直に打ち明ける。こんな伯父さんがいたら確かに意見を聞きたくなるのはよく理解できる。若者は説教よりも話し合いを求めているのだ。以前、タコ社長の娘・あけみ(美保純が実に良かった)も寅さんにだけは心を許し、寅さんの言うことだけは素直に聞いていたっけ…。そもそも、満男篇が生まれたのは狙っていたわけではなく、渥美清が高齢となり今までのようなマドンナに対してハシャいで失恋する笑いが取りにくくなってきた事と、やはり体調が年々弱ってきたために考えられた故のシフトチェンジだった。しかし、若い世代の恋愛を見守り蘊蓄を垂れる寅さんを見ていると、その言葉の向こうに歴代のマドンナの姿が見え隠れするといった面白さが新たな『男はつらいよ』シリーズの楽しみに変貌していった。本作以降の満男篇を観ていると、つくづく“寅さんの失恋は無駄ではなかったのだなぁ”と思うのだ。

泉を追って来た満男の事を批判した泉の伯父に対して寅が言う…「慣れない土地に来て、淋しい想いをしているお嬢さんを慰めようと、両親にも内緒ではるばるオートバイでやって来た満男を、わたくしはむしろよくやったと褒めてやりたいと思います。」このセリフを聞いた瞬間、目頭が熱くなり思わず拍手を送ってしまった。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DB-542 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和44年(1969)
男はつらいよ
続男はつらいよ

昭和45年(1970)
男はつらいよ
 フーテンの寅
新・男はつらいよ
男はつらいよ 望郷篇

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇
男はつらいよ 奮闘篇
男はつらいよ
 寅次郎恋歌

昭和47年(1972)
男はつらいよ 柴又慕情
男はつらいよ
 寅次郎夢枕

昭和48年(1973)
男はつらいよ
 寅次郎忘れな草
男はつらいよ
 私の寅さん

昭和49年(1974)
男はつらいよ
 寅次郎恋やつれ
男はつらいよ
 寅次郎子守唄

昭和50年(1975)
男はつらいよ
 寅次郎相合い傘
男はつらいよ
 葛飾立志篇

昭和51年(1976)
男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け

男はつらいよ
 寅次郎純情詩集

昭和52年(1977)
男はつらいよ
 寅次郎と殿様
男はつらいよ
 寅次郎頑張れ!

昭和53年(1978)
男はつらいよ
 寅次郎わが道をゆく
男はつらいよ
 噂の寅次郎

昭和54年(1979)
男はつらいよ
 翔んでる寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎春の夢

昭和55年(1980)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
男はつらいよ
 寅次郎かもめ歌

昭和56年(1981)
男はつらいよ
 浪花の恋の寅次郎

男はつらいよ
 寅次郎紙風船

昭和57年(1982)
男はつらいよ
 寅次郎あじさいの恋

男はつらいよ
 花も嵐も寅次郎

昭和58年(1983)
男はつらいよ
 旅と女と寅次郎
男はつらいよ
 口笛を吹く寅次郎

昭和59年(1984)
男はつらいよ
 夜霧にむせぶ寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎真実一路

昭和60年(1985)
男はつらいよ
 寅次郎恋愛塾
男はつらいよ
 柴又より愛をこめて

昭和61年(1986)
男はつらいよ
 幸福の青い鳥

昭和62年(1987)
男はつらいよ 知床慕情
男はつらいよ
 寅次郎物語

昭和63年(1988)
男はつらいよ
 寅次郎サラダ記念日

平成1年(1989)
男はつらいよ
 寅次郎心の旅路
男はつらいよ
 ぼくの伯父さん

平成2年(1990)
男はつらいよ
 寅次郎の休日

平成3年(1991)
男はつらいよ
 寅次郎の告白

平成4年(1992)
男はつらいよ
 寅次郎の青春

平成5年(1993)
男はつらいよ
 寅次郎の縁談

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓 車寅次郎様

平成7年(1995)
男はつらいよ
 寅次郎紅の花

平成9年(1997)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇




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