悪魔が来りて笛を吹く
私にとって最大の事件。西田敏行=金田一耕助

1979年 カラー ビスタサイズ 136min 東映(東京撮影所)
製作 角川春樹、橋本新一 監督 斎藤光正 原作 横溝正史 脚色 野上龍雄 撮影 伊佐山巌 
音楽 山本邦山、今井裕 美術 横尾嘉良 録音 宮田重利 照明 梅谷茂 編集 田中修
出演 西田敏行、夏八木勲、仲谷昇、鰐淵晴子、斉藤とも子、石浜朗、村松英子、小沢栄太郎
池波志乃、原知佐子、山本麟一、宮内淳、二木てるみ、梅宮辰夫、浜木綿子、北林早苗、中村玉緒
加藤嘉、京唄子、村田知栄子、藤巻潤、三谷昇、金子信雄、中村雅俊、秋野太作、熱田一久、住吉道博


 昭和26年11月より2年に亘り週刊『宝石』に掲載された同名小説の映画化。昭和23年に実際に起こった“帝銀事件”をヒントに物語は構成されており、元子爵・椿家の乱れた人間関係によって生まれた兄妹の起こす連続殺人事件を解決する金田一耕肋の活躍を描く。東宝の『犬神家の一族』、松竹の『八つ墓村』のヒットを受けて満を持した形で東映が角川春樹プロデューサーの下で製作したのが『悪魔が来たりて笛を吹く』である。金田一耕助シリーズにおいて、犯罪のプロットや結末の意外性など、どれをとっても最高傑作の呼び名も高い。“俺たちの旅”“ゆうひが丘の総理大臣”などテレビの青春ドラマを数多く手掛け、テレビ版“獄門島”の評価も高かった斎藤光正監督がメガホンを取り熱い心情を持った金田一像を作り上げた。脚本は『柳生一族の陰謀』の野上龍雄。また、本作のもうひとつの主役と言える椿子爵邸の豪華なセットを手掛けたのは『戦争と人間』『華麗なる一族』で毎日映画賞を受賞するベテラン、横尾嘉良。東映東京撮影所第8ステージの400坪の敷地に原寸サイズで建てられた2億円のセットは見どころのひとつだ。また、全編を流れる美しいフルートの音色は尺八界に名を轟かせた山本邦山の作曲を植村泰一によって奏でられている。今回、金田一耕助を演じたのは個性豊かな演技派・西田敏行。事件に対して熱い思いをぶちまける西田と対照的に、可憐なヒロインに扮する斎藤とも子、妖艶な母親を演じる鰐淵春子といった女優陣が画面に花を添える。使用人の兄弟を演じる宮内淳と二木てるみは、本作で初めて汚れ役に挑戦。また、金田一の下宿先の夫婦を梅宮辰夫と浜木綿子が扮するなど賑やかなキャスティングも話題となった。


 昭和22年、銀座の宝石店で、店員を毒殺し宝石を盗みとる凶悪な殺人事件が起きた。椿英輔子爵(三谷昇)は、この犯人と酷似していたため、容疑者の一人として取り調べを受けた。だが、英輔は娘の美禰子(斉藤とも子)に遺書を残して失踪し、2カ月後、死体となって発見された。ところが、英輔の妻(鰐淵晴子)や屋敷の人間たちが自殺したはずの英輔らしき人物を目撃するのだった。主の玉虫(小沢栄太郎)は彼の生存を占う「砂占い」の儀式を行なった。金田一耕助(西田敏行)も美禰子や等々力警部(夏八木勲)の依頼で立会った。しかし、占いのあった夜、密室となった居間で玉虫が殺された。調査を進める金田一は、事件のカギが須磨にあると直感。そこで金田一は意外な新事実を聞いた。それは、使用人として働いている三島(宮内淳)とお種(二木てるみ)の出生の秘密であった。兄弟とも知らずに、別々に育った三島とお種は恋に落ちた。やがて、結ばれない仲と判った二人は、椿家の血を憎み復讐を誓ったのである。この血こそ、英輔が恥じて自殺した原因であり、そしてまた、美禰子にあてた遺書の中で、この血に敗けないようにと、彼女に近親相姦を描いたルソーの「ウィルヘルム・マイステルの修業時代」を読むことを勧めたのである。全ての復讐を終えた翌朝、浜辺に死んでる二人の兄妹を静かに見つめる金田一の姿があった…。


 金田一耕助という共通のキャラクターを同じ時期に異なる映画会社が作る…というのは世界的にも珍しい。ジェームズ・ボンドだって基本的には社名は変わっても1社だからね。おかげで、監督や製作会社によって、描き方や作品のトーンが、ここまで違うのだと比較できて面白かった。そして満を持したかのように東映が作った本作は、金田一耕助に西田敏行を迎え感情豊かな躍動感溢れる金田一像を生み出した。正直、三枚目でありながら二枚目を気取る西田敏行のオーバーアクションが金田一耕助という控えめなキャラクターを演じて違和感がないのだろうか…?と心配だった。この探偵の良さは明智小五郎や多良尾判内のようなイイところ全てかっさらい…のような前面に出るタイプではないというところにある。思えば、東映は金田一シリーズを片岡千恵蔵で一番始めに映画化しており、そこでは金田一耕助はスーツ姿のかっこいいヒーローとして描かれ、続く高倉健もその流れを継承していたという歴史がある。しかし、本作は時代の流れに合わせて二枚目男優を起用せずに西田敏行に白羽の矢を立てたのだ。これが結果的に大正解。彼が感極まって大声を張り上げたり、謎解きを自信満々に語る姿は今までの金田一には無かった力強さを感じた。かなり芝居掛かっている西田=金田一は、むしろ今までで一番人間くさい。他社の作品で描かれてきた金田一は事件に対して客観的で非常にクールだ。それが、西田金田一は怒りを露わにして、犯人の心情に泣いてやるのだ。数々のテレビドラマを手掛けてきた巨匠・斎藤光正がメガホンを取り、映画的な映像美よりもストーリー性を重視。おかげで土曜ワイド劇場のイメージが強くなった感はあるもののエンターテインメントとしては一級の作品に仕上がった。中でも映画の殆どが舞台となる総額2億円もかけて作られた椿子爵邸のセットは見物である。
 本作のテーマは支配者階級の裏に潜む歪んだ愛の形であり、複数の男性と関係を持ち、実の兄との間に子供を設けてしまった子爵の一人娘を鰐淵晴子が熱演。そのために腹違いの兄妹となってしまった故に復讐を誓う恋人に宮内淳と二木てるみが、初めての汚れ役を演じる等、キャスティングの意外性が楽しめるのも本作の特徴だ。また、他社作品ではあまり語られていない金田一耕助の私生活を本作では描いており、ヒロインの斉藤とも子が金田一の下宿を訪ねてくる下りもあるのだ。可愛い訪問者に下宿の女将さんを演じる浜木綿子がヤキモチを焼いて金田一の頭をひっぱたくシーンがあるなど、西田敏行主演だけにコメディ要素が強いのも特徴のひとつだ。その下宿の主人を演じる梅宮辰夫が金田一を陰でサポートする闇市界の顔役である事も面白い。他社の金田一シリーズと大きく異なり、てんこ盛り状態で金田一耕助という人物の世界を作り上げている。だから、従来のシリーズにあったドロドロとした陰湿なムードは微塵も感じさせず(画像が全体的に明るいせいもあるのだろうが…)ひたすら、西田敏行のキャラ立ちした作品に仕上がっていた。残念ながら、この一作で終わってしまった西田金田一…出来れば『病院坂の』を二部構成で現在の西田敏行でリメイクしてもらいたい。

「何故、もっと早く犯人の事を言ってくれなかった」全てが終わり等々力警部の問いに、金田一は、こう答える。「僕は警察官じゃありません…人間の営みの中には法律じゃ裁けない事もあるんじゃないでしょうか?」


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和22年(1947)
三本指の男

昭和24年(1949)
獄門島

昭和26年(1951)
八つ墓村

昭和27年(1952)
女王蜂

昭和29年(1954)
悪魔が来たりて笛を吹く
犬神家の謎悪魔は踊る
幽霊男

昭和31年(1956)
三っ首塔

昭和36年(1961)
悪魔の手毬唄

昭和50年(1975)
本陣殺人事件

昭和51年(1976)
犬神家の一族

昭和52年(1977)
悪魔の手毬唄
獄門島
八つ墓村

昭和53年(1978)
女王蜂

昭和54年(1979)
悪魔が来たりて笛を吹く
金田一耕助の冒険
病院坂の首縊りの家

昭和56年(1981)
悪霊島

平成8年(1996)
八つ墓村

平成18年(2006)
犬神家の一族




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