黒い家
この人間には心がない―。

1999年 カラー ビスタサイズ 118min 「黒い家」製作委員会
製作総指揮 角川歴彦 大谷信彦 監督 森田芳光 エグゼクティブプロデューサー 原正人
脚本 大森寿美男 撮影 北信康 音楽 山崎哲雄 美術 山崎秀満 録音 柿澤潔 照明 渡辺三雄
編集 田中愼二 原作 貴志祐介 特殊メイク 江川悦子 衣裳 岩崎文男
出演 内野聖陽、大竹しのぶ、西村雅彦、田中美里、小林薫、石橋蓮司、菅原大吉、佐藤恒治
伊藤克信、町田康、桂憲一、友里千賀子、小林トシ江、鷲尾真知子、荒谷清水、森野昌、鈴木晋介
角田智美、小林麻子、坂井三恵、西美子、MASH、山岸里沙、小川恵光、針谷俊、山崎まさよし


 生命保険会社に勤務するサラリーマンに襲いかかった、保険金詐欺夫婦による恐怖を描いた第4回日本ホラー大賞を受賞し、発売以来83万部を超える貴志祐介のベストセラー。現代日本の世相を予見したような切り口の鋭さと大胆なストーリー展開から、映像化が不可能と言われた同名小説を『〈39〉刑法第三十九条』に続いてサイコスリラーに挑む森田芳光が監督。同じく『〈39〉刑法第三十九条』の大森寿美男が脚色を行い原作のエッセンスを汲みながら、原作とは異なる新しい幕切れを用意している。この脚本を基に、森田監督は綿密な計算と伏線を張りめぐらしながら、練りに練った演出を披露している。撮影を「SLANG 黄犬群」の北信康が担当し、黄色を基調としたポップな色彩で映像化している。またタイトルにもなっている本作の主役“家(撮影所内に作られたセット)”を作り上げたのは「お引っ越し」の山崎秀満。リアリティ溢れる不気味な家を実現している。『(ハル)』の内野聖陽が再び森田作品でコンビを組み、犯人を「鉄道員」で熱演が光った大竹しのぶが演じている。ヨコハマ映画祭にて監督、脚本、撮影、主演女優賞を受賞した。


 昭和生命保険北陸支社に勤務する若槻(内野聖陽)が、ある日、取った1本の電話。見知らぬ女性から「自殺でも保険金は降りるのか?」という問い合わせに自殺を思いとどめるように説得する。翌日、若槻は菰田重徳(西村雅彦)という契約者から呼び出しを受け家を訪ねた。そこで重徳の継子・和也の首吊り死体を発見することとなる。その日から、保険金の催促に連日訪れる実母である幸子(大竹しのぶ)と重徳。毎日のようにやってくる重徳の異常な行動に息子殺しの疑惑を抱き始めた若槻は、独自に調査を開始する。重徳が障害給付金を得る為に指を切り落とす指狩り族の残党であることを突き止める。と、同時に若槻は恋人恵(田中美里)の勤務する大学の心理学助教授に菰田夫妻のプロファイリング依頼。そこで、ふたりは情性欠如者(心がない人間=サイコパス)であると判明する。しかし、警察は和也の死を自殺と判断し、菰田夫妻に保険金が支払われることとなったのもつかの間、今度は重徳が勤務中の事故で両腕を切断してしまう。保険会社は、悪質なケースの対処を専門とする潰し屋・三善(小林薫)を差し向けるのだが、これに激怒した幸子は若槻の留守中にマンションに押し入り、その様子を電話でモニターした若槻は、恵が幸子の家に監禁されていることを知ることとなる。彼女を救出すべく幸子の家に侵入するが、そこで彼が見たものはおびただしい数の死体の中に放置された三善の死体だった。若槻は恵の救出に間一髪で成功するが、幸子は警察からの逃亡中に車ごと海へ転落して行方不明になってしまう。事件から数日が経ち、平静さを取り戻し、仕事に復帰していた若槻の前に再び幸子が現れる。若槻は死闘の末、幸子を倒す事が出来たのだった。


 貴志裕介のベストセラー小説を森田芳光監督が映画化した本作は、ここまで徹底して映像化するか?という程、原作の持つ独特な恐怖を追求している。さすがに妥協は一切許さない森田監督らしいのだが、あまりの惨い描写に思わず目を背けたくなる。特に子供の死体をリアルに映し出すあたりは前作『刑法第39条』からその片鱗は見せ始めていた。物語は内野聖陽演じるある保険会社に勤める若槻慎二の元に掛ってきた一本の電話から始まる。自殺しても保険金は手に入るのか?普段、疑問に思っていても聞く事すら出来かねる質問…不振に思いつつも対応する彼がターゲットとなってしまうとはこの時点で気付く由もない。サイコスリラーはハリウッドでも数多く作られてきたものの、ある程度のタブーは厳守していた。しかし本作では事件の始まりはそのタブーを破壊するかのように子供の自殺死体の第一発見者に若槻がなってしまう事で事件の幕が切って落とされる。このショッキングな映像をあからさまに観客の前に見せる事で森田監督の徹底主義が観客にも伝わって、「これは覚悟して観なくては…」と思わせる。
 子供が死んでから、毎日のように保険金の催促に来る夫婦を演じる大竹しのぶと西村雅彦…。自分の息子を殺害して保険金を手に入れようとする母親に大竹しのぶが正に体当りの演技を披露してくれるのだが、多少オーバーアクションがあるものの、彼女の演技力には毎度の事ながら感服してしまう。演技派二人を殺人事件の中心に据えたのは大成功で、特にラスト、クライマックスで披露してくれる大竹しのぶの弾けた演技は見事!と、しか言いようがない。と、同時に今後の女優人生を左右させるかも知れない危険な役に挑んだ所に大いに感動を覚えた。彼女の夫役を勤めている西村雅彦も同様に、不気味なキャラクターを演じきり途中嫌悪感さえ覚える程…保険会社にやって来て、保険金はまだ出ないと聞かされると「そぉかぁ〜まだ出ないのかぁ〜」と自分の指を噛み切る場面は最高!正直言って、この人じゃないと出来ません。
 現在日本で起きている実の子供を殺害する事件の中で本作の持つ意味は大きい。それは前作の刑法に対する問題を唱い上げたのと同じことが言える。この夫婦の過去を調べていく若槻の身に魔の手がジワジワと忍び寄ってくる描き方は実に上手い。彼が通うスポーツクラブのプールで下手なクロールを、どこで見ていたのか、ファックスで“しぶき出し過ぎ”と送ってくる犯人の執念深さ。森田監督は、こうした現代社会の歪みを的を得た描き方を得意としており(これは筆者の勝手な思い込み)、貴志裕介の同名小説をあえてポップな色彩で描く事で、事件の陰惨さを引き立たせる計算はさすが…で、ある。タイトルの黒い家はまさしくこの夫婦の住む家の事なのだが、正直言って怖いです。美術の山崎秀満が精魂込めて完成させただけに、その家の臭いすら画面を通じて感じる事が出来る。ラチされた恋人救うべく侵入した若槻が、懐中電灯一本、薄明かりの中で乱雑とした部屋を次々と通過する様はさながらまるでお化け屋敷のようだ。最近、ニュースで報道される事件を見ても、本作で描かれている内容は決してフィクションではない。観ている内に、最近見たニュース映像が浮かび上がり、観終ってからも暫くは脳裏から離れないだろう。

「乳しゃぶれ!」クライマックスで一人会社に残る主人公を襲う犯人が、彼の上に覆いかぶさり、いきなり胸をはだけて強要する異常な行動。大竹しのぶのぶっ飛んだ表情が怖い…。ちなみに、このセリフは脚本には無く、森田監督のオリジナルらしい。


レーベル: 角川映画(株)
販売元: 角川エンタテインメント
メーカー品番: DABA-550 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和51年(1978)
ライブイン茅ヶ崎

昭和56年(1981)
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昭和59年(1984)
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