間宮兄弟
だって間宮兄弟を見てごらんよ。いまだに一緒に遊んでるじゃん。

2006年 カラー ビスタサイズ 119min
アスミックエースエンタテインメント=小学館=テレビ東京=WOWWOW
エグゼクティブプロデューサー 椎名保 監督、脚本 森田芳光 プロデューサー 拓殖靖司、三沢和子
プロデュース 豊島雅郎 撮影 高瀬比呂志 音楽 大島ミチル 美術 山崎秀満 録音 高野泰雄 
照明 渡邊孝一 編集 田中愼二 音響効果 伊藤真一 装飾 湯澤幸夫 衣裳 宮本まさ江 原作 江國香織
出演 佐々木蔵之介、塚地武雅、常磐貴子、沢尻エリカ、北川景子、戸田菜穂、岩崎ひろみ、横田鉄平
佐藤隆太、佐藤恒治、桂憲一、広田レオナ、加藤治子、鈴木拓、高嶋政宏、中島みゆき


 江國香織の同名小説を森田芳光監督が原作を忠実に脚色しながら、『の・ようなもの』『家族ゲーム』など初期作品群に通じるようなプリミティブな楽しさに溢れた独自の世界観を構築している。森田エンタテインメントは進化を続け、本作で最も新しいフィールドに到達した。本作も森田組スタッフが集結し、撮影は『39 刑法第三十九条』以来のタッグを組む高瀬比呂志が担当。『黒い家』の山崎秀満が美術を担当し、マニアックな兄弟の部屋を楽しさ満点のスペースに仕上げている。主人公の間宮兄弟を演じるのは「電車男」の佐々木蔵之介とお笑いコンビ“ドランクドラゴン”で活躍中で映画出演第二作目の「キサラギ」も好評だった塚地武雅。塚地武雅は、日本アカデミー賞の他、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール等の新人賞を受賞している。兄弟と関わりを持つ姉妹に沢尻エリカと北川景子を配し、小学校の女性教員を実力派、常磐貴子が好演している。デビュー作『の・ようなもの』で描いていた“人はみな面白い”という主張を本作においてダイレクトに描きたかったと語る森田監督の言葉通り、独特の感性に溢れた出演者が結集された。


 東京の下町―立石にあるマンションで、仲良く同居を続ける間宮兄弟。兄・明信(佐々木蔵之介)はビール会社の商品開発研究員で弟・徹信(塚地武雅)は小学校の校務員を務めている。そんな2人の楽しみは、大好きなベイスターズの試合をスコアをつけながら熱心にテレビ観戦したり、山盛りのポップコーン片手にビデオ鑑賞したり…共通の趣味を楽しみながら一緒に行動しては何不自由ない毎日を送っている。ある日、徹信は恋人がいない明信のためにカレーパーティを企画。徹信は同じ小学校の葛原依子先生(常磐貴子)と、二人が行きつけのビデオ店でバイトする女子大生・本間直美(沢尻エリカ)をそれぞれ招待する。カレーとモノポリーで盛り上がった4人だったが、先生にも直美にも各々付き合っている恋人がいた。そんな事はつゆ知らず、二人は上手く行ったパーティーの反省会をして眠りについた。次に企画した浴衣パーティーには直美の妹夕美(北川景子)も飛び入り参加する。そこで、明信は直美に恋をしていることを実感し、遂に二人でデートのお誘いをするのだが、見事にふられてしまう。一方、徹信にも新しい恋が芽生え始める。明信の同僚の奥さん、さおり(戸田菜穂)に兄の留守中、出会い一目惚れしてしまったのだ。離婚調停中のさおりにとって徹信の優しさはかえって迷惑だと冷たく言い放たれてしまう徹信。共に意中の人からふられてしまった兄弟は、また二人で仲良く暮して行こうと誓うのだった。


 なんか、こんな緩〜い休日を過ごす事が出来たらいいなぁ…という仲良し休日ムービー。大した事件も起こらず、ちょっと痛い目にあったってすぐに忘れられるくらいの程度の物語を森田芳光監督は『の・ようなもの』で見せてくれたような透明感のある映像で描いている。タイトルとなっている間宮兄弟が勿論、本作の主人公。江國香織の同名小説の中に出てくる、この愛すべきキャラに我が愛すべき三枚目俳優の佐々木蔵之介とお笑いコンビ“ドランクドラゴン”のヲタク系芸人の塚地武雅を起用したのが、まず本作における大成功の要因。不快感を与えず、ただ「そこにいる」だけで微笑ましく感じられる男の兄弟ってなかなか演じる側に取っては難しいと思う。それをこの二人は、主人公と彼ら自身の性格を見事に融合、昇華させ、映画ならではの“間宮兄弟”を作り上げてしまったのだ。本作に限って言えば、主役を演じる二人のキャスティングによって、ほぼ7割がた映画の出来が決まったと思う。だからこそ、彼らが発するセリフひとつひとつに彼らが持っているセンスや性格がエッセンスとして加わる事で、何の変哲もないシーンをワクワクしながら観る事が出来るのだ。この雰囲気、どこかで感じた事があるなぁ…と思ったら“かもめ食堂”という映画に共通するものがあって、やはりこの映画も登場人物たちのキャラクターが重要な映画であった。
 兄弟が暮らす部屋は壁一面が天井まで本棚となっており、そこには様々な本がきちんと整理され並べられている。こうした兄弟の生活感が本作の面白さでもあり、この部屋のレイアウトだけを取ってみても「一度行って隅から隅まで見てみたい!!!」と強烈に思う程、小物ひとつに至るまで徹底したこだわりを持っているのだ。さすが、細部にまでこだわって恐ろしい『黒い家』を作り上げた美術の山崎秀満が手掛けているだけの事はある。この部屋の様子から間宮兄弟の性格がしっかりと伝わってくるのが素晴らしい。また、二人が住んでいる葛飾区にある立石駅…その駅前にある“立石商店街”もそのまま実名で本物の店を使ってオールロケを行っているのが程よい空気感を伝えている。
 ここ数年、森田芳光の作り出す映像は、どこか尖っていて向田邦子の原作『阿修羅のごとく』といったホームドラマですら、エッヂの効いた内容となっていた。起承転結のまるで感じられなかったデビュー作『の・ようなもの』みたいなムードの映画をまた作って欲しいと思っていた矢先の本作だっただけに全体を包み込むホンワカムードに懐かしさすら覚えてしまった。彼女のいない仲良し兄弟の弟がお兄ちゃんのために職場の先生(弟は小学校の用務員さんなのだ)やビデオ屋の店員さんを誘い、パーティーを開催する。…で、そこから何が進むのかというと、何があるわけでもなく、とにかく彼らと関わる人々を描きつつ、間宮兄弟の日常を断片的につなぎ合わせる…ただそれだけのドラマなのだ。その中に、ささやかな失恋があったりはするのだが、だからと言って大問題に発展するのではなく、また次の日がやってくる。いつもは、二人並んでテレビで野球観戦を行い(横浜ベイスターズファンというのもイイ感じ)互いにスコアボードを付けながら、試合に勝つとビールとコーヒー牛乳で乾杯する。夜遅くまで映画を鑑賞して、弟が眠ってしまったらそっと毛布を掛けてやる…そんな優しい雰囲気が映画の最後まで貫かれる。クリスマスパーティーと素直に言えずイヴに“おでんパーティー”と称して誘う奥ゆかしさ…本作中、北川景子演じる夕美が沢尻エリカ演じる姉の直美に言うシーンが印象に残る。二人を理解しているのが、一番ハチャメチャな夕美だったという点も心憎い。

「二人でこれからも暮そう。静かに今まで通りに…」失恋の痛みを癒すため新幹線の操車場にやってきた弟・徹信にそっとつぶやく兄・明信のセリフ。


レーベル:アスミック・エースエンタテインメント(株)
販売元:(株)角川エンタテインメント
メーカー品番: ACBD-10429 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,442円 (税込)

昭和51年(1978)
ライブイン茅ヶ崎

昭和56年(1981)
の・ようなもの

昭和57年(1982)
ボーイズ&ガールズ
噂のストリッパー

昭和58年(1983)
ピンクカット
太く愛して深く愛して
 
家族ゲーム

昭和59年(1984)
ときめきに死す
メイン・テーマ

昭和60年(1985)
それから

昭和61年(1986)
そろばんずく

昭和63年(1988)
悲しい色やねん

平成1年(1989)
愛と平成の色男
キッチン

平成3年(1991)
おいしい結婚

平成4年(1992)
未来の想い出

平成8年(1996)
ハル

平成9年(1997)
失楽園

平成11年(1999)
39 刑法第三十九条
黒い家

平成14年(2002)
模倣犯

平成15年(2003)
阿修羅のごとく

平成16年(2004)
海猫

平成18年(2006)
間宮兄弟

平成19年(2007)
サウスバウンド
椿三十郎




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